廃墟に帰るとおかえり、よりも先に黒崎一護の近くにいる人間の井上織姫と茶渡泰虎に会った、とひよ里から聞かされた。名前からして姫や虎やずるいわ、と止まらない愚痴を聞きながらちらりと真子を見た。彼は次の手を考えているのか何やらぼんやりとしていた。
「しかもこのハゲ、人間に後つけられとるんやで!ホンッマありえへんわ!!なあ千綾もそう思うやろ!」
「えっ?あ、えー、そうだね?」
「ほれ聞いたかー!ハゲシンジ!」
なんや呼んだか、とこっちを向く真子と目が合う前に私はひよ里を見た。そしてまた言い争いが始まった。いつもの光景に私は気づかれないように胸を撫で下ろす。
井上織姫と茶渡泰虎。
二人の使う能力には少しだけ興味があるが私から接触を図ろうとは思っていない。そんなことをする暇があるのなら、私はもっと力をつけたい。喜助さんに見てもらった修行で自分の力が嫌という程わかってしまった。今度はいつ行けるかつい考えてしまう。
みんなが喜助さんをいつまでも頼ってしまう私をどう思っているかはわからないが今のところ何も言われていない。それならまあいいかと自分に甘い私は誰かに言われるまで喜助さんを頼るのだろう。言われてしまっても、きっと頼るのだろうけど。
もう一度真子を見た。まだひよ里と言い争っている。私が力をつけることに反対しているのは真子だ。私を戦闘に出させたくないと思っているのも真子だ。何も言わないが、その思いは伝わってくる。杞憂であって欲しいがそうでもないだろう。
「リサ、組手しない?」
「しやん。読書中や話しかけやんといて」
「ローズ、組手しない?」
「嫌だね。服が汚れるじゃないか」
「ラブ、体動かしたくない?」
「ぶははっ!そんなことよりも今週ジャンプ読むか?おもしれえぜ」
「白…」
「千綾ちんー!お腹空かない?あーもうお腹空いたお腹空いたお腹空いたー!拳西遅いー!」
「ハッチ、久しぶりに鬼道見てくれない?」
「すいませんガ…」
撃沈。
唯一手合わせしてくれるであろう拳西も今は夕飯に取り掛かっていてそれどころではない。今日は何やら手の込んだものを作ってくれるらしい。こんな時に限って。自棄になりながら斬魄刀を掴みひとり地下へ向かった。久しぶりに対話でもしようか。
誰にも邪魔されない場所を探して鞘を握りゆっくり目を閉じた。深く息を吸ってゆっくり息を吐いた。斬魄刀に呑まれないように気をつけなくては。落ち着いて名前を呼ぼうとした瞬間、私の名前が呼ばれた。この声は、
「真子。よくこの場所がわかったね」
真子を避けて、とは言わないが結構隠れていた方なのに。斬魄刀を置いて対話しようとしていたのをやめた。彼は難しそうな顔をしている。
「お前のおる場所は目ェ閉じとってもわかるわ」
「なにそれ」
「お前が行きたがる場所もな」
それは先程の浦原商店のことを指しているのだろう。ちゃんと言わない辺り真子らしい。それをいいことに私はわからないふりをした。
「電話、何遍もかけたんやけどなァ?」
「ごめん。気が付かなくて」
伝令神機の着信は真子で埋め尽くされていた。電話をとれば、すぐにでも帰ってくるように私に言うのが目に見えていたから、が本心。
「次はちゃんととりや」
「うん。わかった」
怒っているのか、心配しているのか。これは前者だろう。言葉数が少ないのがその証拠だ。
「怪我してへんやろな」
「ないよ」
「それならええわ」
喜助さんが私に傷をつけるなんてことしないでしょ。と心の中で言い返す。それを知ってるから私を行かせてくれているのを知っている。もし、喜助さんではなく他の人や虚なら彼は必ず止めてくる。俺らが出る場面やない、とかなんとか言って。確かに私たちが虚を倒してしまうと尸魂界に私たちが現世で生きていることを知らせてしまうことになる。それだけは避けなければいけない。しかし、真子はその考えだけではない。私が弱いから行かせたくないのだ。確かに、私は仮面を持っていないし、それを差し引いてもみんなに劣ることは誰よりも痛いほどわかっている。しかし、そこらへんの死神よりは強い自覚はしている。外に出て泣いて帰ってくるか弱い女の子ではない。
「千綾、」
「おーい!メシ出来たぜー!遅かったやつ洗い物だからな」
夕飯当番の拳西が叫んだ。真子が、何かを言いたそうにしていたが言葉を飲み込んだ。
「…行くか」
「うん」
私の前を歩く真子。私は彼の後ろ姿を何度も見てきた。けど、その彼を守りたいと思ってしまうこの気持ちはどうしても許されないものなのだろうか。