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準一級呪術師として任務に赴く時必ず内容を頭に入れて高専を出る。今回もそうだった。二、三級の呪霊を祓う、それだけのものだったが手こずってしまった。行方不明とされていた女子生徒がその場に居合わせ、呪霊の盾にされていた。知性がある呪霊に私を喰ってもいいからその子を離せと叫んだ。にやりと気持ち悪く笑う。その瞬間にぱっと女の子を離してこっちに喰ってかかってきた。後ろから兎兎が噛み付こうとしているのに気付いていない。兎兎の方が速い。私は口角を上げて逃げなかった。だが、それが間違いだった。呪霊の涎が私の目に飛んできた。うえっ。兎兎がちゃんと呪霊に噛み付いて祓ったのは確認した。が、やってしまった。目が、瞼が、焼けるように熱い。うわ。しくじった。その場にしゃがみ込んだ。兎兎が近寄り擦り寄ってくる。心配かけて、ごめんね。あ、意識が飛びそう。兎兎の温もりが消えた。人質にされていた女の子が震えた声で大丈夫ですか…!?と声をかけてくれた。どうしても、どうすることもできなくて、私はできるだけゆっくりとした声で女の子に頼んだ。

「…外に、私の仲間がいるから、呼んできてもらってもいいかな?」




「そんな心配しなくても、すぐ目覚ますよ」
「硝子の腕はちゃんと信じてるさ」
「あっそ。あ、美沙ちゃん?」
「美沙…!?」

どこかで五条先生と硝子ちゃんの声が聞こえた。目は覚ました、と思うが視界がぼんやりして、何も見えなかった。名前を呼ばれたけど、すぐに答えられなかった。それを不思議に思った二人がもう一度私の名前を呼ぶ。私は落ち着いて声を出した。

「…硝子ちゃん、と、五条先生…近くにいる…?」

私の声に何かが落ちた音が聞こえたが二人の声は聞こえない。

「…? あれ、いない…の?」
「美沙、目、見えてない?」
「えっ」

五条先生の声が近くに聞こえた。その声にゆっくり頷く。すぐに硝子ちゃんの温かい手が私の目元を触った。

「負ってた怪我は治したけど、目はちょっと時間かかるかも。でも大丈夫。数日後にはちゃんと見えるようになるよ」
「そっか。怪我、治してくれてありがとう。硝子ちゃん」
「いーえー」

早く視力を戻すために包帯巻いとくね、とされるがままに巻かれた。
キツくない?大丈夫?おっけー。とさすが硝子ちゃん。手慣れている。

「数日はこのままだけど…」
「呪力で、わずかだけどどこに誰が近くにいるかわかるよ。だから、大丈夫だと思う」

さて、これからどうしようかな。ここにいたら邪魔だろうし、怪我は治ってるなら動いても大丈夫だろう。恐る恐るベッドから起き上がる。わ、いきなりぶつかった。

「美沙から僕の胸に来てくれる日が来るなんてね」
「す、すいません。こんなに近くにいるとは思ってなくて…」
「部屋までエスコートするよ。なんならお姫様抱っこで行く?」
「え、遠慮します!」

五条先生から離れようとするものの腕をがっしりと掴まれてしまいどこに逃げたらいいのかわからない。

「悟。あまり美沙ちゃんいじめてあげるな」
「わかってるよ。じゃあ行こっか」

五条先生の声と共に私の手は優しく引かれた。ドアが閉まる音が聞こえたから今は廊下を歩いている、と思う。目が見えない感覚なんて初めてのことで知らず知らずに握る手の力が強くなる。

「大丈夫。僕がちゃんと美沙の部屋まで送り届けるから安心して」

この人は本当に…。

「そういえば、女の子…、私の任務の時に呪霊に捕まってた女の子がいたんですけど。その子は怪我なかったですか?知ってます?」
「伊地知に聞いたよ。怪我は特になかったって。でも気が動転してたって」
「え…」
「私の代わりに喰われてやるって、女の人が、倒れたって。伊地知が行った時本当に美沙が倒れてるから高専に美沙が呪霊に喰われたって連絡してさ。それを聞いた僕が駆けつけたんだよ」
「そうだったんですか」

女の子が無事でよかった。あの時は呪いを目にしてしまったがすぐに見えなくなるだろう。死に際を感じた時の一時のものだと思いたい。伊地知さんに伝えてくれてありがとうと本人に言いたいが私と再会することで今日のことを強く思い出されてしまうのは避けたい。心の中で済ませておこう。

「美沙、呪霊に私を喰ってもいいって言ったの?」
「え」

目は見えなかったけど、すごく嫌な気がした。

「言いましたけど、ただのはったりですよ。兎兎がいてくれたので気を引くためにそう言ったんです」

誤解を招かないように説明しなきゃ怒られる。ひやひやしながらそう伝える。五条先生の手の握る強さがちょっと強くなった。

「女の子、美沙が死ぬんじゃないかって泣いてたよ」
「それは…悪いことしちゃいましたね」
「僕だってそう思ったんだから」
「…すいません」

私の部屋に着いたのか足が止まった。鍵を渡して開けてもらう。靴を脱いでさようならかと思えばベッドまで連れていってくれた。五条先生がいるまえでは流石に横になるのは失礼かと思い座った。

「呪霊に喰われる前に、僕が美沙を食べちゃおうか」

首に五条先生の腕が回り、耳の近くでそう言われ身体が震えた。

「嫌だったら、もうそんなこと嘘でも言うんじゃない。わかった?」
「はあい…」
「本当にいつになったらその自己犠牲なおるのかな」

自己犠牲、私はそんなことしているつもりはない。ただ、人を助ける術を知らないだけだ。私が弱いから。もっと強かったら、硝子ちゃんみたいに人を救える力があれば。五条先生みたいに人を守れる強さがあれば、私だってこんな戦い方しないよ。

「これ、スマホ。近くに置いておくね。あと、飲み物はここに。ご飯はまた届けにくるから」

これ、これ、と私の手でその物を触り場所の確認をしてくれた。あと欲しいものある?と聞かれて首を横に振った。

「じゃあ、一旦僕は戻るね。また来るから。ちゃんと休むんだよ」
「五条先生。迷惑かけてすいません」

ぺこりと頭を下げると頭を撫でられた。そしてドアが閉まる音が聞こえたので布団に潜った。
五条先生がどんな顔をしてここまで連れてきてくれたのか。怒ってた、悲しんでた、笑ってた。色んな表情が浮かんでくるが声のトーンだけでそれを判別するには彼は難しい人間だ。
目を閉じて、考えるのをやめた。