美沙の目が見えなくなって三日が経つ。毎日硝子に見てもらっているが彼女もこれは自然治癒しかないと断言している。治るから安心して、とその言葉は美沙じゃなくて僕に言ってくれたような気がした。
僕が四六時中付きっきりで居てあげたいが、現実はそうも出来ず。一年生の授業に呪霊討伐任務だったり、会議だったりとすることが多い。外に出たそうな彼女を恵に見てもらう時もあるが、極力頼まないようにしていた。こんな状況下でも他の男の手を握るなんて考えたくなかった。僕のただの嫉妬だ。
「美沙?入るよー」
ノックをしても声がなく寝てるのかと思い部屋に入ると、僕が貸したDVDをつけながら寝ていた。腕に抱いているのは夜蛾学長が作ったであろうカピバラの呪骸。こんな時でも彼女は強くなろうとしていることに苦笑いしてしまった。
テレビを消した。そして呪骸を離して美沙をベットに寝かす。ぐるぐるに巻かれた包帯を早くとってあげたい。ぐっすり寝ている彼女のほっぺはぷにぷにしていてくすぐったかったのかそっぽを向かれてしまった。赤い唇からさとるくん、と名前を呼ばれ不覚にもどきりとした。寝言だとはわかっていたがそれでも嬉しかった。早く、目の包帯を解いて僕を見て欲しい。さらさらの髪を触っていると次はこっちを向いた。そして手を両手で握られた。美沙の寝息だけが聞こえる。
「ほんと、もたないって」
その言葉は誰にも聞かれず空気となった。
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あれ、これはどういう状況?
私は、五条先生が貸してくれたDVDを聞いていた、はず。夜蛾学長に頼んだカピバラの人形を抱きしめていたのに、私の手には人形はなく、手が、手が繋がれている。この手は。
「五条先生…?」
私の蚊の鳴くような声に返答はなかった。呪力を感じなくても、この手はここ最近よく知っているものだったので、きっと五条先生で間違いないのだが。返事がないと少し不安になる。何が起こっているのかわからず一人で焦っていると近くで寝息が聞こえた。どうやら寝ているようだ。
五条先生は私が視力を失ってから結構な時間を私に費やしてくれている。任務だってあるのに、すぐ行ってさっさと終わらしてここに戻ってきてくれる。五条先生に言い渡される任務はそう簡単なものでは無いはずなのに。私のことで、彼が大変な思いをしていたらどうしよう。私の目の前ではいつも飄々としていて大丈夫だよと安心させてくれる。でも、今こうやって近くで寝ている姿を目の当たりにするとやはり疲れさせていたのだと実感してしまう。早く治らないかなあ。
「さとるくんごめんね」
少しだけ手に力を入れてしまった。すると、美沙?とまだ眠そうな五条先生の声が聞こえてきた。起こしてしまったようで、このまま寝ているふりをしようかと考えていると欠伸が聞こえてきた。
「美沙、起きてるでしょ」
「…バレました?」
「起こしてくれてよかったのにさ」
「すいません。でも、私もさっき目が覚めたんです」
「そう。ならよかった」
ぱっと手を離され温もりが消えていく。
「五条先生、お疲れですよね。よかったら、私のこと恵に任せるってのはどうでしょう?」
そこで恵の名前が出たのは五条先生の次ぐらいに一緒にいた時間が長かったから。恵も私のことなら平気で物を言うので私にとっても彼にとっても気楽にできる相手だろう。それぐらいの簡単な理由だった。
「絶対嫌」
「えー」
「美沙がそうして欲しいの?僕より恵の方がいいんだ?」
「そういうわけでは…。五条先生、忙しいじゃないですか。私なんかに時間を貰ってるのが申し訳なくって」
「美沙」
真剣な声で名前を呼ばれた。何か逆鱗に触れてしまったか。少し強ばる。
「僕は美沙だから、こうやって様子見に来たりしてるわけなんだけど」
「…はい」
「自分で、私なんかって使うのは好きじゃないよ」
「ごめんなさい。気をつけます」
「うん。美沙だからってことちゃんと理解して」
「ありがとうございます」
「だから、恵には極力頼まない」
「はい…。…?」
うん?どういうこと?
ちょっとよくわからなかったが、変に突っ込んでまた機嫌を損ねたらそれこそ説教されそうだったので口を閉ざした。
「それに、僕最強だから。心配しなくていいよ」
五条先生が笑った気がした。それにつられて私も笑みをこぼした。