目、戻りました。ご心配かけてすいませんでした。
スマホに着信があったので見てみると、そうメッセージが出ていた。
五日目にしてようやく戻ったようで何よりだ。そう思いながらもこの任務を早く切り上げて彼女の元に行きたくなる。早く、彼女の視界に僕を入れて欲しかった。その一心で無傷で高専に戻ることが出来た。彼女の部屋に向かう。ノックをしたが声が聞こえず寝てるのかと思い入るが誰もいなかった。もういい夜なのにどこに行ってしまったのか。そんな病み上がりに任務に行くわけないだろう。…いや、頼まれたら断らない彼女の性格だ。有り得る。一縷の望みをしながら、彼女のもうひとつの部屋である事務室に向かった。
「よかった」
そこには机に打伏して寝ている彼女がいた。どうやら溜まっていた書類を片付けていて寝てしまったようだ。すうすうと気持ちよさそうに寝ているその姿を見ているのは嫌いじゃない。嫌いじゃないが、今回はぽんぽんと優しく肩を叩いて起こす。
「んー」
「美沙、おはよー」
「あれ、五条先生…ゆめ…?」
「夢じゃないよ。現実」
目を擦りながらまだ頭がぼんやりとしているのだろう。ひらひらと手を振れば段々と目が覚めてきた彼女の目が大きく開かれる。彼女の綺麗な眼に僕が映った。
「五条先生、任務じゃ…?」
「うん。終わらせてきた」
「早すぎでしょ…」
「僕最強だからさ」
笑えば彼女もつられたように笑顔になった。こうやってちゃんと目を見て話してくれるのが嬉しくて彼女のの頬に手を添えた。急なことにきょとんとした顔も悪くない。
「目、元に戻って本当によかった」
「たくさん迷惑かけちゃってすいませんでした」
「迷惑じゃないけどさ。次はやめてね」
「気をつけます」
へらりと笑った彼女。本当にわかっているのかと少し苛立ちそのまま頬を抓ってやった。いひゃい!と言われ手を離す。おでこに軽い跡が出来ていた。その視線に気付いたのか、ばっと小さな手でおでこを隠された。
「どうしたの?」
「なんでもないです」
「美沙」
「……………真希ちゃんと手合わせして、負けちゃった跡です」
「真希に?」
こくりと頷き目を逸らされてしまった。
「真希は近接に強いし、それに呪具の扱いにも長けてるから負けても恥ずかしいことじゃないと思うけどさ」
「………」
「それよりも。やっと視力が回復して、病み上がりなのにも関わらず、どうしてこの子はすぐに動きたがるかねぇ」
「だって、体が鈍って…。ずっと何も出来なくて、動きたかったんです」
目が見えなくても呪力を感知して恵と木刀で稽古するぐらいだから治ったら何かしら誰かを捕まえて体を動かすだろうとは思っていたが。本当に僕の想像を裏切らない。もちろん悪い意味で。
ちなみに、恵と木刀で打ち合いしていた話を聞いた時危ないからやめるように言ったんだけどな。
「そんなに強くなりたいの?」
「弱いよりはいいじゃないですか」
「そう?」
「はい」
「この際 僕に守られるのはどう?」
「え?」
茶化し無しで真面目な声で言えば美沙は目をぱちくりと開けて瞬きを数回した。
「それは遠慮します」
「どうして?」
「私は守られるために呪術師になったわけじゃないです。守るためにここにいるんです」
「へえ」
「それに、五条先生が守る相手は他にいます。今は大事な生徒だっていますし」
「そうだね。大事な人はいる」
「はい」
「それを君にするのは許してくれないのかな」
「私は、自分の身は自分で守ります」
彼女の目は覚悟を決めていた。強い女は嫌いじゃない、けどもう少しぐらい頼ってくれてもいいのではないか。守らせてくれてもいいのではないか。
美沙はにこりと表情を変えた。この話はもうやめましょうとそう言われたような気がした。彼女が危険なマネをする度にこの会話を繰り広げるがこうやって毎度はぐらかされてきた。どの言葉を使っても彼女は靡いてくれない。
「もう夜遅いし、送るよ」
「あっ」
「それもだめなの?」
「そうじゃなくて…。まだ書類が残ってて…」
五日分の書類を一気に一日で終わらせるのは無理な話だろう。それに全部が全部急ぎのものでは無い。しかし彼女の性格上仕事を溜め込むのは嫌いらしい。これを終わらせるということはここに泊まるつもりなのか。
「だめだめ。病み上がりって自覚ないでしょ。目もちゃんと疲れるんだからさ」
「でも、私さっきまで寝てたので…」
どうしても椅子から立ち上がらない彼女にしびれを切らして腕を掴んだ。
「だーめ。ほら、行くよ」
外はもう真っ暗だ。いくら寮からそんなに距離がなくても、高専の域内だからっていっても外に危ないやつがいないとは言いきれない。
無理矢理に腕を引っ張ったので彼女は慌てて待ってくださいとストップをかけた。少し不機嫌な顔をしてみると負けましたと言わんばかりの諦めた表情をしていた。荷物をまとめて帰り支度をしだした。
「…お待たせしました」
「うん。じゃあ行こっか」
手を差し出すと躊躇なく手が伸びた。しかし、あと少しのところではっとしたのか引っ込められた。そして何事もなかったようににっこり笑われはいと頷いた。
目が見えなかった時は沢山手を繋げたのに今は触れることすら許されないのだろうか。
いや、そんなこと誰にも決めさせない。
引っ込められた小さな手を優しく握った。
「え、あの、五条先生…。私もう目見えてるので、大丈夫ですよ?」
「うん。わかってる」
少しだけ頬が赤くなる彼女を見て笑ってしまった。目が見えなかった時はそんな素振り全くなかったのに。面白いなあと思いながら見ていたら睨まれた。
「わたし、子どもじゃありません」
そう言われてまた笑った。
そんな意味じゃないんだけどな。