私に呪いが見えるようになって、日々怯えた暮らしをしていたある日。
学校が終わり私は近くの神社に向かった。いつもの様に小銭を賽銭箱に投げてお願いする。同級生、先生、私以外の人に見えない化け物を消してくれ、と。見えるようになってしまってから、もう何年が経とうとしているが正直もう耐えれなかった。
いつものお祈りをしたところで、何も変わらないのは知っていた。気休めだと私自身わかっていたけど、私に出来ることなんてこれぐらいだった。
神社の階段に座って空を見上げる。
家族も何も見えていないし、唯一見ていたであろう悟くんはどこかにいってしまった。ぽっかりと空いた心の穴。助けて欲しいのに、誰に助けを求めたらいいかわからない日々。
「うわあ、宿題学校に忘れてきちゃった…」
やってしまった。
化け物がいる学校には戻りたくなかったが、宿題をしてこなかったら先生に呼び出しされて怒られ親にも言われるだろう。厳しい学校のため先生たちも厳しい。戻りたくないけど、戻らないといけない状況に私の足取りは重たかった。
夕暮れ。校内はとても静かだった。運動部もすっかり切り上げてしまったのだろうか、職員室だけ明かりがついていた。私が歩く音だけが廊下に響く。
「…っうわぁ」
うじゃうじゃいる気持ちの悪い化け物に吐き気がする。あまり見ないように、目を合わさないようにする。変な声が聞こえても無視無視。無事教室に着いて宿題を鞄にしまい急いで学校を出ようとした。しかし、それは叶わなかった。近くで大きな叫び声が聞こえ、ついその方を見てしまった。化け物がこっちを見ていた。目が合う。それは獲物を見る目だった。私は足がすくみその場から動けなかった。何か言ってる。わからない。こんなこと、今まで無かった。のに、なんで。叫んだところで、先生たちは何も見えない。私がおかしいと言われるだろう。化け物の手がこっちに伸びて、私は何も出来ずぎゅっと目を強く閉じた。
「大丈夫かい?」
人の声がしてゆっくり目を開けた時、化け物は消えていた。その代わりに黒い服を着たお兄さんがいた。
「っ、」
「おっと。怪我はないか?」
腰が抜けたのかその場に崩れ落ちる。お兄さんが受け止めてくれた。手の温かさに私は、にんげん?とつい聞いてしまった。お兄さんは笑った。人間だよ、と優しい声に安心した。
頬に伝う大粒の涙。それに気づいた瞬間緊張の糸が切れたみたいで私は子供のようにわんわん泣いた。大きな手で私の頭を撫でてくれた。怖かったな、と声をかけてくれた。もちろん怖かった。しかし私が泣いた理由は違った。私と同じようにあの化け物を見える人に出会えたことが嬉しかったのだ。
▽
「君、呪いがみえるようだな」
「のろい…?」
お兄さんは場所を移動して、私に呪いについて詳しく教えてくれた。その場で全てを飲み込むには難しい話だったが、信じるしかなかった。
「君、呪力があるようだね」
「呪力…?それじゃあ、私にもさっきの、呪いを祓うことが出来るんですか?」
呪いは呪いでしか祓えない。そうお兄さんは言った。私はお兄さんの目を見て聞けば頷いた。そっか、と私の顔が少しだけ安心を見せたからだろう。お兄さんは不思議そうに聞いてきた。
「怖くないのか?」
怖い、怖い、怖い?私は何度も言葉を繰り返して、さっき学校であったことを思い出す。ぶるりと震えた。
「それは、もちろん怖いです。でも今までは何も出来なかったから。祓うことが出来たら、少しは怖くなくなると思います」
「そうか」
私の言葉は伝わったのだろうか。お兄さんはふっと優しい笑みをこぼした。
「任務でまだ数日この地域にいるから、私に出来ることがあればなんでも言ってくれ」
そう言われてお兄さんは自分の電話番号を教えてくれた。
「お兄さん、ありがとう」
「お兄さんじゃない。夏油傑だ」
それが、呪術高専三年、特級呪術師、傑くんとの出会いだった。