彼の番号に連絡をしたのは次の日だった。呪霊がいる。追いかけられてる助けてほしい、と。彼は近くにいたのかすぐに来てくれて呪霊を祓ってくれた。
「大丈夫か?」
「ありがとう 傑くん」
バクバクする心臓を落ち着かせる。傑くんはそんな私に優しく笑いかけてくれた。もう大丈夫だ、と。
それから私を家まで送り届けてくれた。少ない時間だったけど、彼は呪術について教えてくれた。私の頭では理解するには時間が必要でどれだけ簡単に説明してくれてもわからなかった。
それでも傑くんは私に呪力があると言う。それなら私も早く呪いを祓いたい。その気持ちだけが大きく膨らんだ。
「どうしたら私も傑くんみたいになれる?」
私がそう聞けば彼は困っていた。
「高校生になったら呪術高専に通うといい。そこでなら呪いについて教えてくれる」
「じゅじゅつこうせん…。傑くんがいるところ?」
「ああ」
「じゃあ、私傑くんの後輩になるんだね!」
「高専は四年制だから被らないけど、そういうことになるな」
「そっか」
それから傑くんは話を変えた。学校はどうだ、とか授業はちゃんと起きているのかだとかお父さんみたいだなと密かに思ってしまい笑みが零れた。呪いのことを忘れてしまいそうなたわいもない時間がとても幸せだった。
「でね、先生が……っ!」
「近くにいるな」
近く、この近くには、私の家がある…!
私は自分の家まで走った。この時間は両親共働きのおかげで誰もいないはずだ。家にたどり着くと呪霊がいた。例えが思いつかないほどの気持ちの悪い物体にぞくりと悪寒がした。目がいくつもあり様々な目と目が合う。一歩後ずさってしまう。怯える私の前に盾になるように前に立ってくれた傑くん。二本指を立てて何かを呟いた。次第に周囲が夜になる。どうなってるの。わけがわからずただ傑くんを見た。それからは一瞬だった。気が付けば夕暮れに戻っていた。
「大丈夫か?」
「う、うん。なんか、もうよくわからないや」
手汗がひどい。ブラウスも汗でびっしょりだ。
傑くんは何か考える素振りをして私に聞いた。家に入ってもいいか?と。私は否定することも無く家に入れた。綺麗に靴を整えて玄関を通り彼は何かに導かれるかのように両親の部屋にたどり着いた。え?部屋に入ってもいいか、とまた聞いてきたので私は少し考えて了承した。
何か、あるのだろうか。
部屋に入ると彼は目を閉じた。
「傑くん?この部屋に何かあるの?」
聞くと彼は押し入れを開けてくれと私に頼んだ。意味もわからず押し入れを開け傑くんの言うように奥にあったダンボールを出した。それを見るのは初めてだったがとても嫌な気配がした。恐る恐る開けると更に小さな箱が入っていた。まるで封印するかのようにぐるぐると巻かれている箱。傑くんをちらりと見ると頷いたので、箱を開けた。入っていたのは御札だった。なにこれ、と声を出すと呪符だなと答えてくれた。そして彼がそれを再び蓋をしてポケットから紐のようなものを取り出して先程と同じようにぐるぐる巻きにした。
ダンボールを元の場所に戻して、何故か小さな箱は私の手の中にある。何がどうなっているのかわからず、私はただ家から出ていく傑くんの後ろ姿について行った。
「美沙、今夜ご両親に聞いてみるといい」
「あ、うん。わかった」
「また連絡する」
「うん」
その夜私は両親に聞いた。
これはなんなのか。
二人の顔は引き攣り、初めは知らないふりをしたり話を逸らそうとしたりと何かと話したがらなかった。傑くんも何かわかっているようなのに、これでは私だけがおいてけぼりだ。教えて欲しい、と強く言えばまた母が話を変えようとしたが、父がようやく諦めたようでどこか落ち着いた声だった。
「この話を美沙にするつもりはなかった」
そう言われ私は唾を飲み込んだ。
私の家系をずっとずっと前まで遡っていくと代々呪術師を輩出していた立派な家柄だったらしい。ところが呪力を持たない子供が生まれた。一人目の子は男の子で呪具を使って祓っていた。呪具をかなり使いこなしていたがその子は呪いに殺されてしまった。そして二人目の子は可愛らしい女の子で、男の子を亡くしてしまったことにより親は呪具を使ってまで呪いと戦って欲しくないと強く願った。それが悪夢の始まりだったという。簡単に言えば、その女の子は追放されたのだ。呪いを祓えない奴は要らない、と。両親はもちろんまだ小さい女の子を一人にすることはせず一緒にその家を出た。それから数十年が経ち、両親が亡くなる直前に女の子に渡したものがあった。それが呪術師の時に使っていた呪符だったらしい。家系が家系なので、もし、万が一、今後呪力を持った子供が出来たならばこれを渡して欲しい。これが、その子を守ってくれるから、と。この箱が曾祖母から祖父、そして父に渡った。
「美沙は見えるんだな」
「…う、うん」
話の内容が余りにも濃すぎて上手く飲み込めなかった。
「これは美沙に託す。いいな」
「嫌よ!美沙を呪術師になんてさせたくない」
「なるかどうかは美沙次第だ」
二人の視線が痛いほど私に向いた。