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「いろいろあって、よく分かりませんでした」

翌日、私は学校をサボって傑くんに会いに行った。近くの公園で待ち合わせすると傑くんは缶ジュースを片手に先に待っていてくれた。まず何から話せばいいのか悩んでいるとどうだった?と彼から聞いてきてくれた。そして私は素直な感想を述べら軽く笑われた。

「あの、呪符?は私にくれるそうです」
「そうか」

あの後、母と父が喧嘩をした。私が口を出せないほどに言い争いをしたのは初めてだろう。長年一緒に生きていたら喧嘩のひとつやふたつぐらい見てきたが、母はぼろぼろになるまで泣いて父はそれを見ながらも口を動かす。死の危険が伴う呪術師になって欲しくない母とこの呪符を使って強い呪術師になり御先祖様が受けてきた雪辱を晴らすべきだと考える父。急に、美沙はどうなんだと二人の矛先がこっちに向けられた時は本当に怖かった。

「で、なんて答えたんだ?」
「眠たいからもう寝るって言いました」

部屋に戻っても二人の声が煩くて寝れなかったのはまた別の話になる。

「で、本当のところはどう思ってるんだい?」

父とも母とも違う目が私を試しているように見えた。

「私は、呪霊に怯えて過ごしたくないです」

昨日のことをまだ消化できた訳では無い。私の頭では話が難しくて未だによく分かっていない。それでも今の私の素直な意見を言えるのは、目の前にいるのが傑くんだからだろう。

「実際家のことなんてわからないし、私には関係ないと思う」
「うん」
「けど、私に呪いを祓う力があるなら私も傑くんみたいになりたい」

風が優しく私の頬を撫でた。隣にいる傑くんを見ると困った様子で笑っていた。

「私は美沙ちゃんが思うほど出来た人ではないよ」





傑くんは呪霊が近くで出たらしくて急いでどこかに行ってしまった。おいてけぼりの私は傑くんに話せた安心から急に眠気が襲ってきたので、家に帰った。

部屋に戻りベットに戻ってふと思う。
私の親は呪術師のことを知っていた。私があれなに?と指差して聞いたこともあった。それでも二人は何もわからない顔をしていた。二人には呪力がないから見えていないのだろうが、私が「何」を指したのかぐらいはわかっていたはずだ。そういえば。昨日私が部屋に戻った後聞こえてきた母の言葉。
「五条家に行ったのが間違いだったわ…っ美沙に近付けすぎたのよ」
五条家…。五条といえば、悟くんのこと…?どうして悟くんの家が出てくるのだろう。そういえば、母は悟くんが中学に上がったときから私と会わそうとしなかった。悟くんも忙しいのよ、とそればかりで連絡先も教えてくれなかった。仲良いのねと微笑ましく見ていた母はいつの間にかいなくなっていたのだ。

「わざと遠ざけてたんだ…」

今でも会いたいのに、今のままでは会うことなんて出来ないのだろう。

そして、父の言葉は酷く私を混乱させた。傑くんにも言ったように、家系だとか御先祖様がどうとか私には関係ない。そもそも屈辱を晴らすにはどうしたらいいのかわからない。私が呪術師になったとしてどれだけ強くなれるかわからないし、だれを見返せばいいのかもわからない。どう考えても私には重荷すぎるのだ。

考えすぎて寝れなくなってしまった。起き上がり勉強机に置いていた箱を開けた。それはもう興味本意だった。何枚か入っているうちの一枚を触れた瞬間身体の奥がゾクゾクした。何か、吸い取られるような今までに感じたことの無い感覚に思わず手を離した。

「もしかして、これが、」

呪力…と言えずまま私は倒れた。


どこか遠くで私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
美沙ちゃん!美沙ちゃん!と母の呼び声で目が覚めた。むくりと起きると母が安堵のため息をついた。大きな欠伸をひとつ。結構な時間寝ていたはずなのにまだ眠たい。昨日眠れなかったせいだろうか。ベットに戻ろうとしたら名前を呼ばれた。いつにもなくその声は低かった。

「美沙ちゃんは呪術師になりたいの?」
「…なりたい」

ぼんやりとまだ覚醒しない頭に私はつい答えてしまった。それは言うべきことではなかった。母の顔を見て酷くそう思った。けど、私は言葉を続けた。

「私は呪いが見えるんだ。わからないよね。二人にはみえないんだもん。見えるようになって私が怯えて過ごしてたのも知らないんでしょ」
「美沙ちゃん…っ」
「家系のこととか雪辱とか、私には関係ないよね」
「そっそうよ…!関係ないわ」
「それなら、私は私が生きるために呪術師になりたいの」

それが本音だった。母が涙を零した。私はそれを見てやってしまったと思うと同時にここで折れたら一生呪術師にはなれないと感じた。両親からちゃんと愛情を受けてきた私だが、私は親のレールを歩くだけの人にはなりたくない。私の人生なのだから私の好きなようにしたいのはわがままなのか。泣き止まない母に私は嫌気がさして外に出た。思わず傑くんに電話をかけた。会いたい、と。私の事気持ちは間違っていないと肯定して欲しかった。しかし傑くんは電話に出なかった。

「もう夜遅いから家に帰るぞ」
暗闇の公園にひとりでいると父が仕事から帰ってきた。私に声をかけて家に向かおうとするが、私は立ち止まった。

「呪術師に、なったら、誰を見返せばいいの?」
「今いる呪術師全員だよ」
「そんなこと出来ると思う?」
「それは美沙次第だろう。美沙が呪術師になってくれるなら、五条家に出入り出来るかもしれない」
「…五条家にで入り出来るとなにになるの?」
「呪術を教えて貰える」

はっきりとそう口にした。父はやっぱり私を呪術師にしたいようだ。

「私が呪術師になったら、お母さんとお父さんは別れるかもね。それでも私になって欲しい?」
「それはわからんだろう」
「今のこの状況でよくそう思えるよね」

母と父がここまで言い争うなんて今までになかったことなのに。それでも、はっきりと別れると口にしなかった父に私は笑みが零れた。
どうしたら、二人仲良く、私が思う呪術師にならせてくれるのだろう。もっと話し合えば、きっとわかってくれる。何故かそんな気がした。帰ってもう一度二人とちゃんと話し合おう。そう決めて父の隣を歩いた。

家に向かう途中で、嫌な気配を感じた。それを感じ取ったとき、電話が鳴った。良くないやつだと思いながら傑くんの電話をとった。