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昨日から降り続く雨にふと目をやる。洗濯物乾かないなあとかいつやむかなあとか考えていると夜蛾学長が事務室にやってきた。私を見つけるなり呼びつけた。何用かと思い近くに行く。急ぎの任務かな。

「悪い、お茶頼めるか」
「はーい」

なんだそんなことか。軽く返事を返して給湯室に向かいお茶の準備をする。いつもよりちょっといいお茶っ葉を使っちゃおうかな。湯呑みを出してお湯を汲みお茶っ葉を入れた急須にそのお湯をいれた。給湯室に広がる緑茶のいい匂い。あとで私も頂こう。

「失礼します」

会議室に入れば夜蛾学長を始め五条先生や硝子ちゃん、伊地知さんなど知っている顔が揃っていた。珍しく冥さんもいた。難しそうな話をしていたので私は耳にいれないようにして、お茶を配った。透明人間な感じがした。ここに長居はできない。失礼しましたとそそくさと会議室から出た。

給湯室に戻って自分のお茶を入れて一息ついた。

「あの中にはさすがに入れないなあ」

あそこにいたのは呪術師として最前線に立つ人達ばかりだ。あの場に私が入ることすら烏滸がましいというやつだ。いつも普通に話している五条先生や硝子ちゃん伊地知さん。しかし今あの瞬間だけで私とは違う人だと線引きされた気がした。それは当たり前のことだと思っていても、みんなが遠くにいるのは寂しい。

そんなこと、思うことすらお門違いなのだろうけど。

私はお茶を一気に飲み干して事務室に戻った。熱くて舌を火傷したのは誰にも言えない。

書類と睨めっこしている時は余計なことを考えなくて済む。それに時間も早く過ぎていってくれる。回覧用とファイルに綴じるものと分けたり、これは学長の判子がいる書類だし、そっちは誤字脱字発見。よしよし。この分なら今日中に片すことが出来る。終わったら体でも動かしに行こうかな。たしか、一年生は授業も任務もなかったはずだから恵でも誘おう。虎杖くんもいたら誘おう。野薔薇ちゃんは渋谷にでも出かけてそうだなあ。そう言えば二年生は任務だっけ。真希ちゃんがいたら真希ちゃんも誘いたいな。うん、よし、終わった。カタカタと打っていたキーボードから手を離して再度確認する。よし。完璧だ。保存してパソコンを消した。両手を上に上げて背を思い切り伸ばす。気持ちいい。

「美沙、おつかれ」
「五条先生! …会議は終わったんですか?」
「うん。さっきはお茶ありがとね。おいしかったよ」
「いえ…。それはよかったです」

会議室にそのままになっているであろうお湯呑みを回収しに行かねば。私は五条先生の横を通って給湯室からお盆を取りすぐ会議室に向かった。おいしかった、と彼は口にした。それは本当だったようで全てのお湯呑みを見てみるとお茶は全て綺麗に飲まれていた。会議中のお茶なんてただの飾りみたいに思っていたが、少し嬉しくなった。いいお茶っ葉使ってよかった。

つい給湯室で鼻歌を歌いながら湯呑みを洗っていると五条先生に不思議がられてしまった。

「どうしたの。えらい機嫌いいね」
「そうですか?」
「うん。何かあった?」

お茶、おいしいって言ってくれて嬉しかったんです。なんて言えない私はにっこり笑う。

「少しでも、気にかけてもらった、みたいな。そんな気持ちが嬉しいんです」
「ん?どういうこと?」
「内緒です」

さっきまで蚊帳の外だったのに。会議中にお茶を飲んでおいしいと思ってくれた。私のことを思い出してくれた、みたいな、そんなことは一言も言っていないけど。私の脳内では都合のいい解釈ばかりしてしまう。なんて甘くできてるのだろうか。けど今だけは自惚れさせ欲しい。寂しい気持ちを少しでも埋めたいのだ。

湯呑みを全部洗い拭き終わった。五条先生は窓の外を見ていた。

「雨やんだね」
「ほんとですね」
「美沙」
「はい?」

じっと布越しに五条先生に見つめられる。そんなに見られると、嫌でもどぎまぎしてしまうではないか。

「な、なんですか?」
「会議室でお茶を出してくれた時、どのか寂しそうだったけど」
「え…」
「そんな美沙をここまでご機嫌にさせたのはどこのどいつだ?」

この人はわかってものを言っているのだろうか。確信犯?それじゃなきゃタチが悪い。けど、五条先生は本気で考えていて、恵来てたの?と教え子に狙いを定めていた。何だかそれがおもしろくて私は笑ってしまった。

「あー!やっぱり恵なんだ」
「ひみつです」

嬉しくて嬉しくて。でも、この感情に名前をつけたらいけないことを私はわかってしまっている。だからこそ、今この瞬間、この気持ちを忘れないように胸にしまった。