五条先生より早く恵と高専に戻り硝子ちゃんに治療してもらい肋骨も火傷の跡もすっかり治った。反転術式による治療。学生の頃に私も習得したいと硝子ちゃんに頼んだものの彼女は既に感覚でやってのけているため説明を聞いても私にはさっぱりわからなかった。
「ありがとう。硝子ちゃん」
「いーえー」
長旅と怪我が治った安堵で急に眠気が襲ってくる。目を閉じれば頭を撫でられるのがわかった。硝子ちゃんの温かい手。もうそんな小さな子供じゃないよ。なんて笑ってみせたけどはいはいとさらりと流された。
「悟が心配してた。元気になったらちゃんと顔見せてあげなよ」
「はーい」
あ、虎杖くんの入学手続きの書類出しとかなきゃ。それから倒れよう。よし。私は重い瞼を開けて硝子ちゃんにもう一度お礼を言い部屋を出た。
私のもうひとつの部屋でもある事務室に辿り着き、虎杖くんの必要な書類をまとめて五条先生の机に置いておいた。数日前にはちゃんと机の上をきれいにしたはずだったのに知らない間に詰まれている書類の束。少し減らそうかとペラペラと捲っていたら事務室のノックされ扉が開けられた。
「あれ、恵。部屋に戻ったんじゃなかったの?」
現れた恵は私をまじまじと見た。どうかしたかと思いつつ私も彼の顔を見つめた。昨日まであったぐるぐる巻きの包帯は取れ頬の傷も綺麗に治っていた。さすが硝子ちゃん。
「火傷の痕、無くなってよかったです」
「うん。恵も包帯取れてよかった。で、どうかしたの?」
「ちゃんと部屋に戻って休んでるか確認しようと」
「ほんと、私は恵にとって幼稚園児なのね」
小さく笑えば恵の顔も緩んだ。
「もう戻るよ。恵も早く休んだ方がいい」
「それ、信じられないっす」
「えー、ひどーい」
仕方ない。私が部屋に戻らないと恵もずっとここにいて休めない。身体を休めるのも仕事の内だと誰かに言われたことを思い出した。目を通していた書類を机に置いて椅子から立ち上がった。今日は素直ですねとか言われたものだから軽く睨んでやろうと思えば立ちくらみを起こした。うわ、急に来た。恵が心配して私の肩を支えてくれた。
「ほら、無理しすぎ」
「はーい」
知らない間にこんなに大人になって。これじゃあどっちが年上かわからない。恵から離れて大丈夫だと告げた。
「部屋まで送りますよ」
「私ってそんな信用ない?」
「信用はしてます。ただ、五条先生から言われてるんで」
「へー」
番犬つけなくてもいいのに。どうやら信用されていないのは恵じゃなくて五条先生みたいだ。何枚か書類を部屋に持っていこうと思っていたがそれもやめた。何かと後で言われてしまう。素直に事務室を出て部屋に向かった。
「無事任務達成おめでとう」
「ちゃんと寝てくださいね」
「恵もね。ありがとう」
ひらひらと彼の背中に手を振りながら見送る。欠伸をしながら戻る彼にちょっと悪いことしたなと思ったが私が書類を用意しないと虎杖くん入学出来なかったし、とそれなりの理由をつけて布団に入った。
「…さとるくん、いつもどってくるかなあ」
昨日別れたのに、もう会いたくなっている。寝て起きたら、会えるかもしれない。書類を片付けたら会えるかもしれない。夢で会えるかもしれない。なんて馬鹿なことを考えながら私は眠りに落ちた。