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五条先生は美沙さんに過保護だ、と恵に言われたことを不意に思い出した。

確かに心配性なところもあるが、私からしたら恵のことだってそれに五条先生が受け持ったことがある生徒なら全員そうじゃないかと思う。だから、私だけが特別ではないのだ。怪我を負って入院したらお見舞いには来てくれるなんて知り合いだったら当たり前だろう。それを周りが美沙さんには過保護だなんて言うものだから誤解を招いてしまうのだ。

「ほんとに、私だけが特別だったら良かったのになあ」

伊地知さんには新幹線まで見送ってもらった。それから新幹線に揺られて何時間、タクシーに乗り継ぎ任務地に無事に着いたものの天気は生憎の雨。黒いロングコートに身を包み黒の傘を差す。烏がバタバタとどこかに飛んでいく。私も烏と同じ恰好なのに、私には羽根がない。どこにも、飛べない。

「ほんっと。呪霊はいなくならないんだから」

非呪術師から生まれる呪霊。非呪術師がいるから生まれる呪霊。これはあまり深く考えては行けない問題だ。闇に、呑み込まれてしまうから。

今回は田舎の学校だったので帳を下ろした。下手に見つかるのも嫌だし、下級の呪霊なら誘き寄せることができる。そしてお決まりの兎兎を呼び出して中に入った。


▼△▽

私とさとるくんは小さい頃からの幼なじみだった。兄弟がいない私にとってはお兄ちゃんみたいな存在で、きっと彼も私を妹みたいに扱っていてくれた。家族同士の付き合いで初めて会い私が懐いたのだ。

「美沙、これ見える?」
「なにも見えないよ?」
「そっか」

さとるくんが何かを指差すが私の目には何も映らなかった。見えないことにどこか安心しているさとるくんに私は首を傾げた。たしか、半年に一回ぐらいそんなことをされた。見える?見えないよ?そっか、と繰り返す会話。私には意味がわからなかった。私が何かを見えなくて安心するさとるくんにも意味がわからなかった。

それから何年か経ち、悟くんが中学に上がった頃、自然と私達は会わなくなっていた。それがどうしてかはわからない。お母さんに聞いても悟くん中学生だし部活に勉強に忙しいのよ、と言われてちょっと寂しかった。そっか、もうあの頃と同じではない。もう私と遊んでくれないのか。たった三つの差が大きく感じられた。

「ひっ…!」

それから変化が起こったのは私の方だった。小学五年生の春。何かが、見えるようになってしまった。黒く靄がかかった、見てはいけないような、そんな存在を。誰かに相談したかった。でもみんなが不気味な物体がいるのにも関わらずごく普通に生活しているから、何も言えなかった。わたしだけが、見えてるの…?そう考えつくには長い時間は要らなかった。そして思い出す悟くん。
「これ見える?」
これって、これのこと…?
ばくばくと心臓が脈打つ。悟くんと連絡がとりたかった。このことを早く言いたかった。怖いよ、助けて、さとるくん。そう思って親に連絡先を聞いたが教えてくれなかった。悟くんとはもう関わっちゃダメだ。そんな理不尽なことはないだろう。どうしてもと必死に頼み込むが何も彼のことを教えてくれなかった。親に内緒で家に行ったことだってある。それでもどうしてか門前払いされてしまった。どうなっているのかさっぱりわからない。
私の目の前は真っ暗だった。これからどうやってあの不気味な物体と過ごしていけばいいのかわからないまま中学に上がる。見えないふり、見ていないふり、目が合ってないふり。普通の人間だと誰でもなくただ自分に言い聞かすみたいにそう過ごしてきた。


△▲

「ふう…!」

兎兎が呪霊を食い尽くし、ほぼ全滅させた。この学校に何故こんなにも呪霊が集まるのかその理由を突き止めようと校内を歩いてみる。虎杖くんの時みたいに特級呪物があったりするのか。それとも何かが埋まってるとか。目を閉じて呪力を感じ取る。…強いものは感じられず私の考えすぎだったみたいだ。これならもうホテルに向かってもいいだろう。帳を解き、兎兎を戻して夜道を歩く。

タクシーを捕まえてホテルまで乗せてもらう。不意にスマホを確認すると五条先生から着信が何度も入っていた。声が聞きたい。大丈夫、無事だよって伝えたい。あの頃はずっとずっと連絡をとりたかったのに、今となってはストップをかけてしまう私がいる。心配をかけたいわけではない。そうではない。

頼りすぎると、甘えすぎると、ダメだ。

と私は知っていたから。