「じゃあ、私に構ってないでさっさと行けば?」
口では強がりつつも、本心は違う。本当は行かないで欲しい。私の元に戻って来て欲しい。私を、この息苦しい世界から連れ出して欲しい。全てがあべこべで、それさえも苦しく辛い。
いっその事、私を殺して欲しい。とさえ思う程。
不快を露わした私に彼は不意に表情を変える。困ったように優しく微笑むその姿に私は目を丸くした。
「───だから、ここに来た」
意味が分からず言葉を噤む。マルコは笑みを消し、じっと真剣な顔で私を見据えた。
「セツ、もう一度言う。…おれと一緒に「セツ!下がりなさい!」」
「っ!ヒナ先輩!」
「ちっ!」
ヒナ先輩の声がマルコの声を掻き消すと同時に、側面から伸びてきた黒い檻。それをその場から飛び退く事によって躱す。ちらりとマルコを見れば彼も同じように避けていて、私とは反対の場所に着地する。
「そう簡単に隊長は捕まらないわね、ヒナ無能」
煙草を銜えたヒナ先輩がコツコツとヒールを鳴らし、マルコを睨み付けながら私の横に並ぶ。
「……ヒ、ナ先輩」
「いつからこんなに手のかかる子になったのかしら。ヒナ幻滅」
「…すみません」
「ちっ!邪魔してんなよい」
「邪魔なのは貴方よ。一番隊隊長、不死鳥マルコ」
邪魔された事により、苛立ちを見せるマルコはヒナ先輩に食って掛る。その姿を見て、珍しい。と思った。彼は冷静沈着なイメージが強いからだ。
「セツ、後退して。ここ以外は後退したわ。殿は私がする」
「……………」
「セツ?」
呼ばれた名前に、はっと意識を向ける。ヒナ先輩は反応しない私を不思議そうに見下ろしていた。
「……わかりました」
「誰が誰を食い止めるって?おれも舐められたもんだな」
「あら、強気な男ね。私じゃ役不足かしら?ヒナ心外」
「ああ、役不足だな。黒檻のヒナ。だっけか?お前のヤワな檻には捕まらねェよい」
はっ、と笑い飛ばすマルコ。誰が見てもわかる挑発にヒナ先輩が乗るはず無いと思ったが、見上げた彼女は目を細め不快感を全面に出していた。
「ヒ、ヒナ先輩……?」
「鳥は放し飼いにするものじゃないわよね?特別に貴方専用の鳥籠を作ってあげるわ。泣いて喜ぶのね!」
「はっ、ぬかせ!」
「セツ、さっさと行って!」
ヒナ先輩の声を聞いてゆっくりと踵を返して、迷う足に叱咤し後ろ髪引かれながらも駆け出す。そんな私にマルコが静止の声を荒らげるが、ぎゅっと目を瞑り聞こえない振りをした。
少しの間走り続けてピタリと止まる。ここに辿り着く前に何人もの海賊を蹴り倒した。振り返ればその倒れた海賊がまるで足跡のようだった。ヒナ先輩とマルコはもう見えない。
不意に先程の彼の言葉が蘇る。
「セツ、もう一度言う。…おれと一緒に」
「まさか…ね」
そんな事あるはずが無い。自分の都合の良いように解釈しようとする頭を振る。違う。期待などするな。また傷つきたくはない。そう何度も何度も言い聞かせるように頭の中で反芻した。
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