どこに……?
叩き落とされただろう場所に彼の姿はなく、立ち止まり見渡しても海兵とクルーの姿しか見えない。彼らの隙間から探してみても、襲い来る白ひげ海賊団が邪魔をする。
「おらァァアア!!」
「っ、邪魔くさい!」
舌打ちを漏らしながら拳を振り上げたクルーを地へと沈める。そうすれば次のクルーが敵討ちとばかりに襲い来る。こんな事では前に進めず、彼を探すなど不可能だ。
能力を使おうか。今なら使える。そう思案した時ちらりと見えた紫と金の色。顔を歪め地に膝を着いた彼が居た。
「───マルコ!」
確かめる為に呼んだ名前は彼には届かない。爆音や男達の雄叫び、呻き声。それら全てに私の声が掻き消される。ああ、届かない。彼に向かって駆け出してみても、行く手を邪魔されもどかしい。
「マルコ!」
クルーを蹴飛ばしもう一度名前を呼ぶ。聞こえるはずが無いと分かっていている。それでも呼ばずには居られなかった。だが、二度目の私の声に彼は僅かに反応を見せた。
ぴくりと身体を揺らし、肩で息をしながら辺りを見渡す。そして、その青い瞳に私を捕らえた瞬間、驚きに見開かれ彼の唇がゆっくりと動く。
セツ……と。
聞こえてはいない。ただ彼の唇は確かに私の名前を象る。聞きたいのに、聞こえない。近いはずなのに、遠く感じた。
「女海兵!!よくもおれ達の家族をっ!!!」
「っ!しまっ」
彼に気を取られて背後から襲って来たクルーに気が付かなかった。振り返った時には既に剣が振り下ろされていて。その分厚さから軽傷では済まないだろうな。と呑気にそんな事を考えた。
元々死んでもいい。と思っていたのだ。それが今この瞬間、その時が訪れただけで。最後に彼に会えたのだから未練もない。
死を受けいれ目を閉じた瞬間。背後からとてつもない風が吹いた。前のめりになりそうになった身体を包む暖かいなにか。ふわりと香った懐かしい香水と微かに混ざる煙草の匂いに閉じた目を見開いた。
「───簡単に諦めんじゃねェよい」
耳元で聞こえたのは低く怒ったような声。私に迫っていたはずの剣は、背後から護るようにその胸に抱き込んだ彼の手によって押さえられていた。
「……マル、コ」
「マルコ隊長!!なんで止めんだ!!」
「うるせェよい。悪いがこいつは殺させねェ」
止められた男は納得がいかないようで。歯を食いしばりマルコを睨み付ける。それでもやはり隊長だからだろう。渋々と剣を引いた男は、舌を打ち私をひと睨みして近場の海兵へと斬りかかっていた。
「……はな、して…」
背後から回った腕。背中に感じる心地の良い鼓動。離すどころかギュッと力の入った腕に耐え切れず爪を立てる。ガリっと音が鳴り、離れた逞しい腕。
「引っ掻く事ねェだろい。いてェ…」
「すぐ治るでしょ」
振り返れば、ぼっと青い炎が傷を覆っている。ガープ中将から受けた打撃はどうやら治ってないようで、頬が腫れていた。痛々しいその傷。無意識に伸ばした手が頬に触れる寸前で、はっとしてギュッと手を握り引っ込める。マルコを見ていられず気まずさに顔を俯かせた。
「………おれが、触れるのは嫌かい?」
「っ!ちがっ……」
切なげな声。弾かれるように地面から顔を上げ否定しようとした。私に触れられるのが嫌なのはマルコでしょう?と、否定しようとして止まる。彼の顔が今にも泣き出してしまいそうだったから。
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