「…な、んで。そんな顔、するの…?」
声が震える。そんな顔をしないで。期待させないで。狼狽える私を知ってか知らずか、眉を下げ悲しげな表情でマルコは続ける。
「……おれは、セツに触れてェ…」
「っ!!」
「傍に居て欲しい」
「……な…に、言ってるか…分かってるの……?」
まるで爆弾のような威力のある言葉に息が止まるほどの衝撃を受ける。なんとか言えた言葉。正気?とでもいうように真っ直ぐ青い瞳を見つめる。そんな私に彼は表情を変え口角を上げた。
「殴られて頭でもおかしくなったか?とでも思ってんだろい。……残念だが正気だ。それと、今この場でお前は答えなくていいし、おれも聞かねェ……」
厭らしい笑みを浮かべたマルコの言葉が理解出来ずに眉を寄せる。正気?答えなくていい?聞かない?もう訳が分からない。ただ分かるのは人の悪い笑みを彼が浮かべていて、昔と同じであればそれはなにか企んでいる時の表情だという事だけ。
「……なにか、企んでる………?」
なにを企んでいるのか。それは彼にしか分からないし、想像もつかない。素直に口にすればマルコは、ああ。と肯定し、とんでもない爆弾を投下する。
「───お前を連れていく」
まるで決定事項のように。力強く言い放った言葉。それを理解するのに数秒かかった。なにを、馬鹿な…。と言おうとして迫り上がる何かが邪魔をして声を発せずにただ固まる。
「泣こうが喚こうが関係ねェ……悪いが、無理矢理にでも連れていくよい」
「っ、な、…わた、……っ」
喋れない。喋ってしまえば、涙が溢れてしまう。本当はあの時、聞きたかった言葉。無理矢理にでも連れて行って欲しかった。それを今、彼がしようとしているという事実に心臓がギュッとなる。
期待してもいいのだろうか?自惚れてもいいのだろうか?
目の前が霞み始め堪えるように下唇をギュッと噛み締めた時、マルコに斬り掛かる海兵を見てここは戦場だという事を思い出す。二人の世界に浸っていた。慌てて辺りを見渡せば海軍が押されている。まるで私とマルコだけが取り残されたような状況に困惑する。
「セツ大佐!下がって下さい!孤立します!」
「へぇ…出世したとは思ったが、大佐ね。予想以上だが……孤立させるのが目的だよいっ!」
「ぐっ!」
「っ!」
「セツ!」
マルコによって殴り飛ばされた海兵。彼に駆け寄ろうとしてマルコに腕を掴まれる。なんだ。と振り返れば、眉を寄せた彼の顔の近さに一瞬怯む。
「おれを選べ」
私の人生で、間違いがあるとすれば一度だけ。
それはあの時、マルコの手を取らなかった事。貴方を愛した事も海軍に入った事も、間違いとは思わない。だけど、確実に私の中の歯車が狂いだしたのはあの日あの時。
答えを聞かない。と言ったけど、誰でもないマルコが言うならば私の中で答えは一つしかない。
私は貴方から離れられない…。
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