「見ない間に不細工になったのね……ヒナ失望」
「……会って早々それは些か失礼じゃないですか?ヒナ先輩」
結局あの後、センゴク元帥は私の表情から何かを読み取ったのか、追求するでも怒るでもなくソファーにクザン大将とともに座らせると次から次に食事を用意した。
おにぎり、サラダ、肉やフルーツ。それも大量に……。見ているだけで胸がいっぱいになり顔を歪める。そんな私にセンゴク元帥は言った。
「少量でも構わんから一緒に食べてくれんか?」
フルーツ、一つでも構わんよ。と優しげに微笑む姿に涙が出そうになった。そんな私を他所にクザン大将はおにぎりやら肉やらに手を伸ばす。それを見たセンゴク元帥が、お前に食べさせる為に用意したんじゃ無い!と口をへの字に曲げていた。
それを見て笑い、心の中で謝罪とお礼を呟いてフルーツへと手を伸ばす。甘酸っぱい苺が美味しくて三つ四つ食べた所でふと気が付く。料理が沢山乗ったテーブルの端。センゴク元帥の大好物である煎餅がぽつん。と置かれている事に。
おにぎり、肉、サラダ、フルーツに煎餅は違うだろう。と小さく笑った。
お腹が満腹になり、センゴク元帥の部屋を後にする。クザン大将は彼の部下が呼びに来て、ブツブツ言いながら仕事に戻って行った。招集までは時間がある。船に戻って武器の手入れでもしよう。と歩き出し本部を出ようとした時前から歩いて来た人物を見て足を止めた。
ピンクの長い髪、タイトなスーツ。綺麗な顔で煙草を咥える姿が良く似合う。彼女は私に気が付くと盛大に顔を歪める。
「見ない間に不細工になったのね……ヒナ失望」
「……会って早々それは些か失礼じゃないですか?ヒナ先輩」
「何があったか知らないけど、痩せすぎ。そんなんじゃ、いくら能力者でもいつか海賊に負けるわよ。能力を宛にしすぎ」
「……肝に銘じます」
辛口なヒナ先輩に苦笑いを浮かべ肩を竦ませた。その態度が気に食わなかったのか、彼女の眉がぐっと寄る。美人が怒ると迫力があるな。と呑気に考えていれば、前髪をかきあげたヒナ先輩の言葉に目を見開く。
「嘘臭い顔。……昔はそんな風に笑わなかったし、人を逆撫でするような態度しなかったのにね。そんなに元彼が忘れられないのかしら」
「っ、」
「なんでって顔してる。教えて欲しい?」
私の反応にニヤリと口角を上げたヒナ先輩。何故知っているのか、ただの女の勘なのかもしれない。と思ったが、どうやら違うようで…彼女の言葉に素直に頷いた。
「セツがよく飲みに行ってたあの酒場……私もよく通ってたの。勿論亭主とも顔馴染み」
「………なるほど。スパイには気をつけないと、ですね」
「元彼って言うのはただの勘だけどね。貴女の男事情に興味は無いわ。……でも、負けて死ぬような事だけは許さないわよ。これ以上ヒナを失望させないで」
刺すような視線。だけどこれが彼女の優しさだと理解できるのは、長い時を共に過したから。
昔からヒナ先輩は私を可愛がってくれていた。稽古に手は抜かないし、容赦ないけど私が納得するまで付き合ってくれた。一緒に飲みに行ったり、買い物に行ったり。尊敬する先輩であり、友であり、師でもあった。
「……わかってます」
「なら良いわ。白ひげ海賊団は下っ端も強いわよ……気をつける事ね。まあセツの配列は私の近くになると思うから、私が傍にいれば死ぬ事は無いわ。ヒナ有能」
「はは、そうですね。なんでもロックしちゃいますもんね、ヒナ先輩は」
「……なに?バカにしてるの?ヒナ不快。……貴女は足手まといにならないように精々レバーでも食べておくのね」
「ヒナ先輩こそバカにしてるじゃないですか」
「ヒナは良いの。先輩だから。……じゃあまた後でね」
ふふ、と軽やかに笑い私の肩をぽん。と叩く。視界に映る革の手袋。それは自身がはめているそれと同じ物。二人で交換したプレゼント。まさかの同じ物で二人で目を点にして笑いあったのは遠い昔。
「ヒナ先輩が男だったら確実に惚れてるなあ……」
颯爽と離れていく後ろ姿はまるで王子様のようで。もし彼女が男で、彼氏だったら、こんな風にはならなかったかもしれない。
「なんて、ね」
そんな事、考えた所で仕方がない。去っていくヒナ先輩に背を向ける。さっさと船に戻ろうと早足に外へと向かう。本部の入口を抜けた時、やっとまともに息が吸えた気がした。
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