最も
ひとつなぎの大秘宝に近い男。世界最強と謳われ、世界最強の海賊団を率いるエドワード·ニューゲート。白鯨を模した船の上に現れた男は、生ける伝説に恥じない堂々とした姿だった。
息を飲むほどの存在感。なのに私の視線はその後ろ。一点に釘付けになったまま逸らせずにいた。ついつい口をついて出そうになる名前を、ごくり。と唾液と共に飲み込む。
「こんなに堂々と湾内に侵入されるなんて…ヒナ失望。セツもそう思うでしょ?……セツ?」
「っ、」
どうかした?と隣に立つヒナ先輩が顔を覗き込む。宣言通り、私は彼女の傍の配列となった。それはヒナ先輩が仕組んだのか、それともたまたまかは分からない。彼女の長い髪がまるでカーテンのように視界を遮り、思い出したように深く息を吸い込んだ。
「そう、ですね。まさかこんなにも簡単に侵入されるとは…流石は四皇。元帥もさぞかし悔しいでしょうね」
「それはいい気味。ヒナ賞賛」
「……聞こえちゃいますよ、ヒナ先輩」
「バカね。聞かせてるのよ」
ふん。と鼻を鳴らし腕を組んだヒナ先輩は露骨な態度を取る。それに苦笑いを浮かべた時、響いた声にぐっと眉を寄せた。低くく掠れた声。懐かしいそれを私は覚えていて、嫌でも耳がその声を拾う。
「この海じゃ誰もが知ってるハズだ。おれ達の仲間に手を出せば一体どうなるかって事くらいなァ!!」
ズキン、ズキンと痛むのは頭か胸か。ゆっくりと目を向けた先、カーテンに遮られていた姿がまた私の目に映り込む。
「───マルコ……」
名前を口にしてその存在を確信してしまえば、ゾワゾワとした物が背筋をかけ上る。気を抜けば泣いてしまいそうで、奥歯をギリギリと噛み締めた。
「知ってるの?」
その声はヒナ先輩の物で。小さく呟いた名前が聞こえたのだろう。男を見据えたまま私は鼻から息を吸い込み、にっと口角を上げた。
「そりゃ…一番隊隊長、不死鳥マルコは有名ですから」
知らない人はいないでしょ。ちらりと横目でヒナ先輩を見上げる。同じように横目で私を見下ろすその顔は納得していないのが明らかだ。
「……ま、そおゆう事にしておいてあげる」
「そおゆう事もなにも、そおゆう事ですから」
「はいはい。っと無駄話はここまでのようね」
細められた目が逸らされ、正面を向いたヒナ先輩に釣られて視線を上げた。動き出した白ひげは、その豪腕を惜しげも無く晒し何も無いその空間を殴り付ける。途端に、何も無い。と思っていた空間にヒビのような物が走り空気が震えた。
ぶわっと髪を巻き上げる風を感じながら理解する。これが、グラグラの実の能力なのだと…。
「“海震”」
ぽつりと呟いた声に感心した声が向けられる。
「よく勉強してるのね」
ヒナは興味無いけど。とお揃いの黒革の手袋をぎゅっとはめ直す。私とて白ひげに興味など無い。もちろん“白ひげ海賊団”にも。
だが、死に物狂いで情報を集め、“白ひげ”に関する新聞を読み漁り記憶した理由はただ一つだけ……そこに彼が所属していたからだ。
なんとも重く未練がましい自身を嘲笑ったが、それを止めることは出来なかったし止めようとも思わなかった。
prev next