「エースを取り返せぇえええ!!」
“海振”を起こした白ひげ。荒れ狂う波を凍らせたクザン大将。不覚にも的に足場を与えてしまう事となり、海賊達はチャンスだとばかりに攻め入ってきた。
我先に。と彼らは決起する。ただ一人の家族の為に……。私が見つめる彼もそのうちの一人。
「……羨ましい。ですね」
死ぬかもしれないのに、海軍本部に乗り込んで来るほどの“絆”と“愛”。もしも私が海賊に囚われてしまったとしたら、一体何人が助けに来てくれるだろうか?……いや、助けに来てくれる人数が羨ましい訳では無い。
ただ、彼が助けに現れた事。私が羨ましいと思ったのはそれだけ。
「セツ?」
「……いえ、なんでも」
有りません。心配させないように口では嘘を吐く。本当はなんでも無くは無い。痛む心と頭。先程食べた物がせりあがり、今にも吐き出してしまいそうだった。
「セツ、中将達が出るわ。私たちも前線で食い止めるわよ」
「………わかりました」
雄叫びを上げ奮起する白ひげ海賊団。それを迎え撃つ海軍も自分達を鼓舞する。それに続くようにヒナ先輩が駆け出し、近くの海賊から順番にその能力で捕らえていく。そんな彼女を見て歓声が上がる。
「さすが、ヒナ先輩」
下っ端のクルーを何人も一気に捕まえる事により、士気を高め少しでも海軍の勝利を引き寄せる。それが彼女のやり方。
「ボケっとしてないで」
観戦する私に叱咤を飛ばす。それに、はいはい。と肩を竦め両太腿に装着されたホルダーに手を伸ばす。
「あら、能力はまだ使わない気?」
「…私の能力がまだ役立たないのは知ってるでしょう?」
「レバー食べてこなかったのね、ヒナ幻滅」
「あ、またバカにして「呑気に話してんなよ女ァア!!」」
馬鹿みたいに声を張り上げ、大振りで剣を振り上げた男が会話を中断させた。それにチラリと視線を向け、ホルダーから二丁の銃を取り出しながら一歩後ろに後退する。ガン、と地面を切りつけた男に目を回す。
「剣が可哀想」
「っんだと!?クソ
女!」
「振り上げるのを待つと思う?」
剣を振り上げる前に隙だらけの男に向かって銃口を向ける。鈍い。グッと指に力を入れトリガーを引けば、男の身体が地面に沈んだ。それを見た海賊は一瞬固まり、仲間が死んだ事を理解すると雄叫びを上げ襲いかかって来る。それさえも鈍く感じた。
そんな彼らを蹴り飛ばし、時に引き金を引き一人ずつ確実に地面に沈めていた時、本部の方から凄まじい斬撃が白ひげへと向かうのに気が付き目を向ける。
「鷹の目のミホーク…」
世界最強の剣豪。彼が白ひげに向けた挑戦状。それは呆気なく隊長によって破り捨てられた。
「三番隊隊長、ダイヤモンド·ジョズ。さすがは隊長格」
そんな簡単に突破は出来そうにない。まあ、端から突破などするつもりなど毛頭無い。ただのらりくらり、自身に与えられた持ち場を守りある程度で後退するつもりだ。
白ひげ海賊団は中央突破を狙っているだろう……そこが一番の近道だから。ならば私に気が付く筈もない。隊長達は全員中央を見つめているのだから。ならば彼もそうだろう。
近くの海軍を蹴り飛ばし、ふう、と大きく息を着く。ゆっくりと視線を向けた先、白鯨の頭部に立つ二人の男。遠すぎて顔までは見えないが、彼だということはよく分かる。
あんなにも恋焦がれた彼がすぐそこに居る。逢いたい。逢いたくない。対極な気持ちが入り乱れ唇を噛み締める。
「……今の私を見たら、貴方はなんて言うのかな」
みすぼらしい私の姿。醜くなった私。出来れば貴方の思い出の中の私は綺麗なままで……。
「よそ見してんじゃねェエ!!」
「……煩い。ちゃんと、見てますよ」
飛び出して来た男が声を上げながら斧を振り上げる。その手首にそっと手を当て軌道を少しズラしてやれば、ガン、と氷塊に刺さった斧はどうやらなかなか抜けないらしく、慌てた始めた男に盛大なため息を吐き出す。
「揃いも揃って……」
先程の男といい、この男もどうやら同じようで。
中腰のままけして斧を離そうとしない男が静止の声を上げるが、それを無視して顎を蹴り飛ばす。バタっと倒れた男。ぐるっと辺りを見渡せば、いつの間にか囲まれていたようで。遠くの方でピンクの髪が揺れているのが見えた。孤立した私にジリジリと武器を手に詰め寄る白ひげ海賊団にニヤリと口角を上げる。
「どうぞ、お手柔らかに…」
その言葉が合図だったかのように、一斉に男達は私との距離を詰める。それを片っ端から地面に沈めていく。ただ夢中に、がむしゃらに。死んでもいい。と思いながら……そうしなければ、身分など忘れて今すぐに駆け出してしまいそうだったから……。
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