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「グララララ。元気なのがいるじゃねェか」

「あ?」



鼓膜を震わせるほどの爆音の中、白鯨の頭部で戦況を見るおれに届いた楽しげな声。振り返りいくらもデカいその人物を見上げる。

オヤジは一点を見て口角を上げていた。海軍大将やエースは正面にいる。一体何がそんなに興味を引いたのか。オヤジの逸れた視線は左側へと向けられていて、それに釣られるように目を向ける。そんなにもヤバい奴が居るのか、と。

モモンガ含め、中将辺りが大暴れしているのか。ならば早急に対策を取らなくては…と思ったおれは、その人物を見て全ての機能を停止させた。



「っ!、あいつは…」



小さい身体で戦場を駆け抜け、敵を撃ち抜いては蹴り倒す。顔に似合わず足癖の悪い戦闘スタイルは、初めて会った時から変わらない。



「───セツ……」



呟いた声は爆音に掻き消される。それでも近くに居るオヤジには聞こえたようだった。



「あいつが、お前の言ってた“忘れられねェ女”か…」

「……ああ、もしかして。とは思ってたが…まさか」



本当に居るなんて…。

思ってもいなかった出来事に、おれは目を凝らしその人物をよく見ようと身を乗り出す。昔より小さくなった気がする。そして昔は無かった“正義”と書かれたコートに眉を寄せた。



「……出世してやがる」



確かあのコートは少尉以上から着用が認められていたはず…。おれと居た時はまだあのコートは持っていなかった。



「グララララ、いい事じゃねェか!マルコ!取り返すもんが増えちまったなァ!」

「………今は、エース以外優先する物はねェよい」



ギリギリと奥歯を噛み締め本心を飲み込む。思い出すのはあの時、おれの手を取らなかったあの日の事。あの日から幾日も過ぎた筈なのに、ふとした時に思い出すのは綺麗に微笑むセツの姿。

何度も何度も忘れようとした。セツは海軍。おれ達の敵。結ばれない不毛な恋を海賊であるおれはしたくない。

男達を蹴り倒して行くセツから、正面の戦況へと目を向ける。そう、今はエース奪還が最優先。仲間の事以外気にしてなど居られない。……だが気が付くとチラチラと目を向けてしまっているおれにオヤジはもう一度大きく笑う。



「マルコ、勿論エースは大事な家族だ」

「……なんだよ、急に…」

「だが、大事な物が一つだけなんて誰が決めたァ?」

「……………」

「お前にとっちゃ、あの女もエースと変わらず大事なんだろ。なら遠慮する必要はねェはずだ」

「……セツは…海軍だよい」



そしておれは一度振られた身。海の男がなんと未練たらしい。彼女はおれと別れてから出世し順風満帆な道を歩んでいるのだろう…。おれだけが、あの日のまま進めずにいる。それに肩を竦め自嘲気味にオヤジを仰ぎ見れば、鋭い視線がおれへと向けられた。



「だから何だってんだ。ヘタレ小僧。海軍だから?おれ達は海賊だ。欲しいもんは奪ってでも手に入れる。お前がさっきから偉そうに言ってるのは言い訳にしか聞こえねェ」



自分が傷つかない為の。



「……………」

「……それでもお前が動かねェってなら仕方がねェ。お前のその小せェプライドが邪魔してんだろ……だがな、マルコ」



言葉を区切るオヤジに眉を寄せる。



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