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学校が始まって3日目になれば、校門前に押しかけていたマスコミが生徒にカメラを向け始めた。
なんでもNo.1ヒーローの授業の様子について聞きたいらしい。

オールマイトに不都合な方向に編集されてしまうかもしれないと思うと下手なことを言うわけにもいかず、あたしは向けられたカメラに微笑んでこの美貌を振りまいてあげるだけに留めた。


その後マスコミが学校の敷地内に侵入して騒ぎが起きたけれど、特別何事もなく収まったから良かったわ。

でもそこからあんな事件に繋がるだなんて、きっと誰も思っていなかった。


***


日付は変わって今日のヒーロー基礎学は「人命救助訓練」。
ヒーローの仕事は何も敵との戦闘だけじゃない。

相澤先生にオールマイト、あともう1人の3人体制での訓練と聞いて、一体どんなことをやるのかと期待で胸を膨らませる。

コスチュームの着用は各自の判断と言うことだったけれど、気合いを入れるつもりで他のみんなと同じようにコスチュームへと着替えて集合場所に向かえば、先日のマスコミ騒動の折に学級委員長に決まった飯田ちゃんが張り切ってみんなを整列させていた。


緑谷ちゃんには悪いけど、やっぱりこの癖の強いクラスをまとめるにはど真面目な飯田ちゃんが適任ね。
ちょっと柔軟性に欠けるのが残念だけれど。

乗り込んだバスが想定していたタイプの座席じゃなくて悔しがる飯田ちゃんの姿にそんなことを思っていれば、瀬呂ちゃんが隣の空席を叩きながら手招きする。
ありがたく隣に座らせてもらったところで、バスは演習場に向かって出発した。



「あなたの "個性" オールマイトに似てる」
「!!!!そそそそそうかな!?いやでも僕はそのえー」
「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトは怪我しねぇぞ。似て非なるアレだぜ」


バスの振動が心地良くて少しうとうとし始めた頃、前の方が僅かに騒がしくなった。
個性の話で盛り上がってるみたい。
眠気に負けそうな意識を逸らそうと会話に耳を傾ける。


「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だな」
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」
「んだとコラ 出すわ!!」
「ホラ」
「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」
「てめぇのボキャブラリーは何だコラ 殺すぞ!!」

やだ、お下品。


でも確かに、派手な個性というのは羨ましい。
爆発に氷に炎、雷にレーザー。
派手な攻撃はそれだけで人の目を寄せ付ける。
人気商売でもあるヒーローにとって、注目を集めることができるというのは大きなアドバンテージだ。

見た目の華やかさはあっても、個性自体の派手さはないのよね。
もちろん相澤先生、イレイザーヘッドみたいに露出を好まず裏に徹するヒーローも大勢いるけれど、あたしは人気だって欲しいのだ。
実力、人気を兼ね備えたヒーローになるにはそれも課題ね。



騒がしさのおかげで睡魔を振り払って、ようやくたどり着いた演習場はこれまた広大な土地。
そこで待っていた先生、スペースヒーロー"13号"の説明によるとあらゆる事故や災害を想定したエリアが点在しているらしい。
まさにU(嘘の)S(災害や)J(事故ルーム)。

雄英の設備に感動している間もなく、13号先生によるお小言が始まった。


「皆さんご存知だとは思いますが、僕の "個性" は "ブラックホール" 。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
「その "個性" でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」
「ええ…。しかし簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう "個性" がいるでしょう。
 超人社会は "個性" の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。
 しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる "いきすぎた個性" を個々が持っていることを忘れないで下さい」


元々13号先生のファンだという麗日ちゃんはもちろん、クラスの全員が真剣に話を聞いていた。

あたしの個性だってそう。
ちゃんと自分の身体と力を理解して管理下に置けなきゃ、人を傷つけ殺してしまうかもしれない力。


「この授業では…心機一転!人命のために "個性" をどう活用するかを学んでいきましょう。
 君たちの力は人を傷つける為にあるのではない、救ける為にあるのだと心得て帰って下さいな」


プロヒーローからの言葉でその事実をしっかりと受け止める。


「以上!ご清聴ありがとうございました」
「ブラボー!!ブラーボー!!」
「ステキー!」

13号先生が話し終えれば拍手喝采。
それだけ素晴らしいお小言だった。


さて、一同気を引き締めていざ訓練開始という雰囲気の中、ふと視界の隅で何かが動いた気がして目線をそちらにやる。
目下の広場、何もないところに黒い何かが突然存在していた。


「、一かたまりになって動くな!」

あたしと同じく異変に気付いた相澤先生が叫ぶ。

「13号!!生徒を守れ!」


黒い何かは広がり、中からぞろぞろと人影が現れる。
ここからでは一人一人の顔なんてわからないけど、異形型が多いことだけは分かった。


「何だアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「動くな あれは敵だ!!!!」


動くなと言われたけれど、生まれて初めて感じる圧倒的な「悪意」にあたしはぴくりとも動くことができない。
これが仮想でもなければ画面越しでもない、本物の敵。
ヒーローが、そしてあたしたちが戦わなければならない相手。




「…子どもを殺せば来るのかな?」


普通なら声なんか聞こえない距離なのに、その声だけはすっと耳に届いた。