03

姿見の前で真新しい制服に袖を通して、ヒーロー科を示すブレザーのデザインに思わず頬が緩んだ。


入学試験の結果はもちろん合格。
なんでもレスキューポイントとかいう裏採点があったみたいで、自己採点よりもずっと高い点数が獲得できていた。
やっぱり人助けはするべきよね。

ちなみに合格の報告をしたら雄英合格者が出たぞー!なんて、クラスどころか学校中がお祭り騒ぎになったのには笑っちゃった。


家を出ればいつものあたしの美貌に対する視線に、この制服に対する感嘆の声が混じる。
羨望や称賛を受けるのは気持ちがいい。

あたしは上機嫌のまま、これから通い慣れるであろう通学路を辿った。


***


登校初日ということもあって、かなり余裕をもって家を出てきたけれど、既にちらほらと新入生らしき姿が見える。

あの制服はたしか普通科、あっちはサポート、あら、あの子はヒーロー科ね。
同じクラスの子だったりして。


そんな風に周りの子たちを眺めながら振り分けられたA組の扉を開ける。
張り出された座席表通りの席に座れば、心地よい春風が入り込んできた。

入学式までまだ時間はあるし、少しのんびりしていましょ。


目を瞑って暖かな日差しと柔らかい風を感じていれば、徐々に教室内に人の気配が増えていく。
顔見知りがいたのか明るく弾む挨拶に、緊張で上ずった声。
耳をそばだてているうちにすっかり輪に入りそびれてしまったようで、目を開ければ教室内にはいくつかのコミュニティができていた。

こうなってしまうとなかなか入りにくいのよね、と自分の失態に内心ため息をついていれば、教室内に怒声が響き渡る。
声の方に目を向けると、何やら態度の悪いつんつん頭の男子と眼鏡のきっちりした印象の男子が揉めているようだった。

それからすぐにどこか見覚えのあるもさもさ頭の男の子も喧噪の中に混じって、ひときわ騒がしくなる。

更に登校してきたばかりの女の子もその輪の中に入ったと思えば、続いて先生らしき小汚い男の人が教室に入ってきて、教室内は一瞬で静かになった。


「担任の相澤消太だ。よろしくね」

「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」


***


体操服に着替えて、グラウンドに出る。
更衣室でも特に会話は発生せず、完全に声を出すタイミングを見失ってしまった。

こうなったらいっそ誰かに話しかけられるまで黙っていてやろうかしら。
あたしが喋るのを初めて見た人は大体吃驚してくれるから、そのリアクションを楽しんであげましょ。


グラウンドで始まったのは個性把握テストと称した体力テスト。
入学式は先生の判断で全員欠席。

先生は全員プロヒーローって聞いてるけど、とっても自由なのね。
想像以上に凄いところだわ、雄英高校。


体力テストは中学までやっていたものとは違い、個性を使った記録を測るみたい。

なんてあたし向きなのかしら。


面白そうだなんてきゃいきゃいはしゃぐクラスメイト達に対して、相澤先生はトータル成績最下位の子は除籍処分というルールを提示したけれど、あたしには自信しかない。

身体を使うことは得意中の得意だから。


50m走に握力測定、立ち幅跳びにボール投げ、持久走。
跳んだり走ったりには脚の筋肉、投げたり握ったりには腕や指の筋肉の筋細胞を増やし、大きくすることで筋力を増強する。

今必要なのは上位に食い込むだけの成績だから、そこまで筋肉を大きくはしない。
筋肉を大きくすればするだけ超人的なパワーが出せるけれど、いかんせん美しいこの顔には似合わないのだ。

どの競技でもそれぞれずば抜けた成績を出す子が居るけれど、あたしは満遍なく全ての競技で上位の成績を出せるように個性を調節した。


それにしても、あの試験を突破したというだけあってみんな個性の使い方が上手い。

未だに個性を使っていないもさもさ頭の男の子は苦戦しているようだけれど。



結局、もさもさ頭の彼が個性を使ったのはボール投げのみで、しかも指の骨を折る怪我までしていた。
個性のカウンセリングとか義務教育中に機会があっただろうに、あそこまで個性を使いこなせていないなんて珍しい。


緑谷くんというらしい彼のことを気にしながらも、総合5位という結果に満足していれば、ふと背後から声をかけられた。


「ねえ!組替くんって言うんだよね、体力測定すごかったよー! 
 あ、私は葉隠透!見ての通りの透明人間だよ!よろしく!」


とうとうこの時が来たわね!と意気揚々と振り返れば、そこにあったのは宙に浮く体操服で。

吃驚して思わず固まっちゃったけど、そういえばなんか透明な子居たわね、と思い出す。


「ふふ、ありがと。こういうのは得意なの。
 あたしは組替良成よ。よければ良ちゃんって呼んでちょうだい」
「へっ」
「おっおかまちゃんなの…!?」


満を持してあたしが喋ると、声をかけてくれた葉隠ちゃんだけじゃなくて周りのみんなも度肝を抜かれたって感じの表情で固まる。

あまりに予想通りのリアクションに笑いが堪えられない。


「あら驚かせちゃったかしら?
 なあんて、あたしが喋るとみんなびっくりしてくれるから、
 いつ話し出そうか迷ってたの。楽しいリアクションをありがとね」


そう笑えば、みんな徐々に動きを取り戻して、そこからは自己紹介合戦。


楽しそうなクラスで本当に良かったわ!