V
採寸を終えた私たちは、次に杖を買いにオリバンダーへと向かった。
カラン、と音がして戸を開け入ると、壁一面に杖の入っているであろう箱が並んでいるのが目に入った。
「わぁ……すごい……」
思わず眺めていると、ランに手を引かれた。
ランが大きめの声で御免くださいと尋ねると
お店の奥からシャッと梯子が横に滑って来て、
店主であろうおじいちゃんが現れた。
「おや、ラン・ガルアッシュか。
懐かしいね、お前さんももちろん覚えているよ。
君に売ったのはそう、黒檀に一角獣のたてがみ__」
「失礼、ミスター。今日は私の用事ではなく、
この子の杖を買いに来たのです」
昔を思い出して喋るミスターにランが声を掛けて遮った。
そこで初めて気が付いたとミスターは私を見る。
そして、やはり驚いたように口を開いた。
「ラン!驚いた、君にももう子どもが__」
「違います、この子は拾い子です」
まあ確かに私たちで育てていますけれど、と言ってランは私を前に押した。やはり挨拶をしろということらしい。
「シャラです、よろしくおねがいします」
「シャラだね、宜しく。さあ、杖腕はどっちかな?」
宜しくと言うのと一緒にパチンッとウインクをして、ミスターは巻尺を出した。
杖腕は利き腕のことだと聞いている。
私は迷わず右を示した。
ミスターが腕の長さを測り、
たくさんある中から一つの箱を持ってきた。
「これはどうだろう。
サンザシにドラゴンの心臓の琴線、28センチ。
やや硬め」
渡された杖を振ってみるとあまり相性が良くなかったようで、左側の箱の山をガラガラと崩してしまった。
私が戸惑っているとミスターは杖を取り上げ、
別の杖を探しに行く。
そうしてミスターがひっ掴んできた箱は、
シンプルだが銀の装飾が綺麗な白い箱だった。
「これは……どうだろうか。
紫檀にセストラルの尾の毛、32センチ。
よくしなり、呪文に最適」
やや赤っぽい濃い茶のその杖を振ると
綺麗な火花が散ってパチパチと弾けた。
「おお、その杖に選ばれたようだ!
うむ、そうか、その杖に……」
それを見たミスターは嬉しそうな顔をした後、
少しなんとも言えないような、そんな表情をした。
「死を見た者にしか見えぬというセストラルが
芯を提供した、数少ない杖だ。
きっと、どんな道でも、君を導いてくれるだろう」
ミスターはそう言って、私が何か言う暇もなく
お会計へ移ってしまった。
そしてあれよあれよという間に杖を箱に戻され、
それをランが受け取って手を引かれた私は店を後にした。