明日になったら






私の階段滑り落ち事件のあったあの日、影時間が明けた後に美鶴ちゃんが説明してくれた。受付に立っていた男子は月高の転入生、岳羽先輩と同学年らしい。
「それで、こちらの彼女は桐条エリ。私の従姉妹で一年生だ。」
「よろしくお願いします。ええと……有里先輩。」
「どうも……ところで、怪我は大丈夫?」
「え、あ、あはははは!ダイジョブ、デス。はい……。」
「そう。」
 まさかあれを突っ込まれるとは思わなかった。いや、思いっきり彼の目の前でやらかしたんだけれど。
 それよりも、微かに微笑んだ彼の表情がまた綺麗で再び見とれてしまった。私ってこういうタイプの顔が好きなんだろうか。いや、それよりも初対面の人の顔をまじまじと見るなんて私って失礼すぎない?
「とにかく今日はもう遅い。」
悶々としている間に美鶴ちゃんが話を進めていた。詳しいことはまた明日、ということで彼と案内役を買って出た岳羽先輩は階段を上り視界から消えていく。二人の姿が見えなくなった後
隣の美鶴ちゃんにこっそり耳打ちする。
「ここに来るってことは、あのひとにもあるの?“適正”。」
「影時間の中、錯乱もせず、きっと駅からここまで歩いてきたんだ。彼の能力はまだ未知数だが……。限りなくそうである可能性が高い。」
「そっか。」
「それよりエリ、あの大きな音はなんだったんだ?先程彼が“怪我は“と言っていたが。転んだのか?」
「あー、ウン、転んだのはそうだけど……。」
ケツが6個に割れたかと思ったなんて美鶴ちゃんに言えるわけがない。適当に笑ってごまかして私も寝るね!なんて言い捨てて部屋に直行した。

「そういえば……。」
後ろ手に閉めたドアに寄りかかった時に思い出した。彼の気配に感じた妙な郷愁はなんだったんだろう。階段を滑り落ちてからは余裕がなくて忘れていたけれど。しかし、顔を見て懐かしいというならともかく、気配が懐かしいとはどういうことだろう。我ながらおかしな感覚だ。
「あ、寝ぼけてたのかな。」
それなら説明がつく。そもそも今日は入学式があって疲れていたのだから
「ていうか、もう寝よう。」
洗濯もシャワーも明日でいいやと部屋着に着替えてベッドに横わる。目を閉じて深呼吸したら、これ以上ないほど速やかに深い眠りへ落ちていった。

ALICE+