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私が一人旅を始めて早三日が経つ。この三日は極めて順調で何のトラブルもなく歩いてくることができた。三日かけて来た場所はこの名前も知らない山。だいぶ遠くに来たからかもうこの辺りの地形は私には分からない。だから行く先々で人に尋ねてこの山まで来た。なんでこの山に来たのか私にもよく分からないが、自分の勘を頼りに進んだ結果ここに辿り着いたのだから何かあるに違いない。
炭治郎は鼻……つまり『嗅覚』が鋭かった。そして強いて言うなら私は『第六感』が鋭い。なんかちょっとシンパシーを感じる。

もうすぐで『夜』が来る。でもこの辺りには宿が無いから、私は一夜をかけてこの山を登ろうかな。






夜が来た。暗い山の中はとても不気味で今にも木の影から何かが飛び出してきそう。内心ビクつきながらできるだけ早く山を登ってしまおうと足を速める。熊とか出てきたらシャレにならないしね。近くに村があったらそこで一日泊まってから登りたかったんだけど無いのなら仕方がない。月も雲で隠れてしまい、灯りゼロの山は奥にいくほど闇が濃くなる。まるでその先に進もうとする者を飲み込んでしまいそうな。
そのとき、その暗闇の方から人影のようなものがこちらに歩いてくるのがうっすらと見えた。いきなり現れた人影に私は驚きで声をあげそうになったが、なんとかそれを寸の所でのみ込む。あぁ…でも人がいて良かった、と警戒心を緩めようとした瞬間ドクンッと心臓が一際強く胸打った。それはまさしく炭治郎達の危険を察知したときの感覚と同じ……否、これはそのとき以上の感覚のように思える。思わず痛いと感じてしまうくらいに鼓動する心臓に私は今、自分はかなり危険な状態だということを察してしまった。そしてたぶん、あの人影がその元凶もと……!!!


逃げよう、そう思って今来た道を走って戻ろうとしたとき、暗闇に慣れてきた私の目がその人影の姿をハッキリと捉えてしまう。姿は確かに人の形をしているのだが何かが人とは決定的に違うように見えた。肌の色もどこか緑がかっており、その様は腐敗しているようにも見えなくはない。その人の纏っている雰囲気が明らかに人ではない者だった。耳をよく澄ませてみるとその人は何かをブツブツと呟いている。逃げろ、逃げろ、と脳が警報を鳴らしているのにも関わらず私は足がすくんでしまいその場に立っていられることがやっとだった。あれは……一体なに?
月の光を遮るように空を漂っていた雲が少しずつ流れていき、雲と雲の隙間から月がほんの少し姿を現した。山に差し込んできた僅かな月の光で真っ暗だった景色が僅かに明るく照らされる。それに伴って、こっちに歩いてくるその人の姿も少しずつ照らされていく。そして月が完全に姿を現したとき、まるで朝方のように明るくなった景色の中でその人は私に向かってこう言った。

「久しぶりのえさだァ…」と。

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