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頸を斬られたその人は体と頭がそれぞれ灰となって消えていった。いやいやいや……もうこの時点で色々と驚きで目玉が飛び出してきそう。頸を斬った張本人であるおじさんは鼻歌を歌いながら刀を鞘に戻していた。そうだ、このおじさんに聞けば良いんじゃないか。なんか専門的なこと知ってそうな雰囲気だったし…。そうと決まればと私はおじさんに「あの!」と、声をかける。私に声をかけられた至って自然な様子でおじさんは「何だ?」と首を傾げる。


「今の人って……」
「あぁ、今のは人じゃない。『鬼』だ」
「お……『鬼』…?」
「そうだ。鬼は人を喰らう。だから俺達『鬼狩り』は人を守るために鬼の頸を斬る。簡単な話だろ?」
「はい……でも鬼って本当にいるんですか?」
「変なこと聞くなぁ、お嬢ちゃんは。今しがた鬼を見てたって言うのに」
「そうなんですけど……。『鬼』って聞くとおとぎ話感があっていまいち実感がわかないというか……」
「まあ、確かに。俺も鬼と実際に会うまでは信じられなかったしな。お嬢ちゃんは対峙したから分かると思うが、鬼は人よりも身体能力や治癒能力が優れている。だから本来なら人が鬼に勝てるわけないんだ」
「でもおじさんは勝ってましたよ?」
「あぁそうだな。それは特別な『呼吸』があるんだ。それを使うと俺達人も身体能力を上げたりすることができる。それを応用して鬼を倒す。分かったか?」
「はい、なんとなくですが。その特別な呼吸っておじさんがさっきやってた『藤の呼吸』ってやつですか?」
「お、ご名答!その通りだ。他にも色んな呼吸があるけどな。俺が使うのはその藤の呼吸。これは俺が作った独自の呼吸なんだ。凄いだろ」
「そういうのって作ることもできちゃうんですか!?凄いですね……。私には絶対できません……」


あんなに強い『鬼』と戦えるなんて、すごすぎる。私は全く歯が立たなかったのに……。いや経験の差とか普通に私は修行していないからとかもあるだろうけど単純に尊敬してしまう。もしかしたら自分が食べられてしまうかもしれないのにそれに立ち向かうなんて……。
おじさん凄いなーと心の中で尊敬していたとき、私はふと炭治郎の家であったあの事件のことを思い出した。その瞬間私の中で全ての事の辻褄が繋がった。
炭治郎の家族を襲ったのはきっと『鬼』だ。やっぱり熊なんかじゃない。そして炭治郎はきっと家族を殺された憎しみからその鬼を倒すことのできる呼吸っていうのを会得しようとして禰豆子ちゃんと一緒に村を出たのではないか。もしも村を出る前に私達の元に来ていたら大人が誰か引き留めるかもしれないし、家族が殺されたとなったら禰豆子ちゃんと離れたくないと一緒に連れていく理由も頷ける。あくまで仮説だから当たってるかは別だけど……。でも間違いなくあれは鬼の仕業だということだけは確信がある。


「おじさん、その鬼狩りさん達はどのくらいいるんですか?」
「さぁな〜結構いるからな」
「じゃあもしかして組織的な感じになってるんですか?」
「まあな、政府非公認だけど。『鬼殺隊』って言うんだ」
「…………その鬼殺隊に入るためにはどうしたら良いんですか?」
「最終選別を通過すれば入れるぞ……って、もしかしてお嬢ちゃん……!」
「……おじさん、無理を承知でお願いします。
私に『藤の呼吸』を教えて下さい!!!」


私を見るおじさんの表情がひくついていた。

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