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私はこの山の中にあるというおじさんの家まで連れてこられた。夜は鬼が活発に活動する時間らしく危険だということでおじさんが家で夜を明かすようにと言ってきたためお言葉に甘えてお邪魔することにしたのだ。囲炉裏を囲むようにしておじさんと座る。出されたお茶を飲み、私は一息つくとおじさんに先程までしていた話を再びもちかけた。


「あの……さっきも言ったんですけど」
「『私に藤の呼吸を教えてほしい』だろ。なんでお嬢ちゃんは藤の呼吸を使えるようになりたいんだ?そもそもお嬢ちゃんはどこから来た?その歳なら親だっているだろう。鬼に家族を殺されて鬼殺隊に入りたい、だから修行をつけてほしいって奴は確かにいる。でもお嬢ちゃんは家族を亡くしたようには見えない。それなのにどうしてこんな山に、しかもこんな夜中に一人でいたんだ?」


おじさんの問いかけに私は俯く。私は家族を亡くしてはいない。おじさんの言うとおり。それなのにどうして私がおじさんの言う『藤の呼吸』を習得したいと思ったのか。それは不純な動機だった。私が藤の呼吸を習得して、鬼殺隊に入りたいのは炭治郎に会える・・・・・・・と思ったからだ。おじさんはさっき言っていた。鬼殺隊に入るには最終選別を通過しなければならないと。だからきっと炭治郎も最終選別に来るはずだ。そこに私も行くことができたら……またもう一度炭治郎達に会うことができる。私はどうしても炭治郎達に言いたいことがあるんだ。
こんな動機をおじさんに話したら絶対に「そんな甘い気持ちで鬼殺隊に入るな」と言われてしまう。おじさん達は真剣に命を賭けて鬼に立ち向かっている。そんな輪の中にこんな「会いたい人がいるから」という鬼に全く関係ない動機で入隊するなんて、もしも私がおじさんの立場だったら確実に怒鳴っている。それでも私はどうしても炭治郎達に会いたいのだ。あんな別れ方をしてこのままおさらばなんて受け入れられる訳がない。禰豆子ちゃんに至ってはここ最近会えてすらいなかったのだから。こんな終わり方はいやなんだ。
持っていたお茶を一旦置き、私は姿勢を正しておじさんを真っ直ぐと見つめる。少しでも私の気持ちが伝われば良いとそう思った。


「…どうしても会いたい人達がいるんです」
「『会いたい人達』?」
「大切な友達なんです。少し前にその人達の家族が亡くなって、その一件をきっかけにその友達はいなくなってしまって……。多分、その友達の家族を殺したのは鬼の仕業なんです。だから今頃その友達は鬼殺隊に入るために頑張っていると思うんです」
「だから最終選別に行けばその友達とまた会えると思ったのか……」


おじさんは私の話からなんとなく事の顛末を覚ったのかガシガシと頭を掻く。


「こんなこと言うのはお前の友達って奴に悪いけどさ、お前の友達の家族が亡くなった事がどうしてお前の原動力になる?自分の家族が殺された訳じゃない。友達と言ってもあくまで他人。ついさっきお前は実際に鬼と対峙してその力の差を感じたはずだ。本当にその友達とやらに会うためだけにお前は自分の命を賭けられるのか?」
「私は……」


炭治郎と禰豆子ちゃんに会う。私はそのためなら…

「私は、炭治郎達に会うためだったら命を賭けても構いません!」

そのために私は家族を置いてここまで来たんだから。


私の言葉を聞いたおじさんは深いため息をつくと呆れたように笑って「分かった。お前に藤の呼吸を教えよう」と、折れたようにそう言った。



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