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無事和解することができた私と炭治郎は手を繋がず、横に並んだ状態で走って・・・いる。炭治郎の話しによると鬼は日に当たると灰となって消えてしまうらしい。だからこれからなるべく早く日のでる方へ行こうと話が固まり、その方角に向かって私たちは走っているのだ。呼吸を使いながら走ることによって速く、長く走り続けられる。……炭治郎もあの厳しい鍛練を乗り越えてきたんだと思うと感慨深い。
そのとき急に、私の心臓がまるで「止まれ」というようにドクンッと胸打った。もう何度も体験したこの感じ。藤の呼吸を習得してからというもの、ますます自分の第六感が研ぎ澄まされていくように思える。風や水の流れ、草木の揺れ一つ一つが機敏に捉えられるようになった。人の気配にも敏感になった。
炭治郎も何かを察知したのか、私とほぼ同時に足を止める。この特有の嫌な感じは──


「鬼の気配……」
「納豆も分かったか……!」


気配の方向を定めようと集中する。鬼の気配は私達の頭上から感じた。バッと上を向くと私達に向かって飛びかかろうとしている鬼と目が合った。炭治郎と共に後方に跳ぶと、私達の居た場所に鬼が勢いよく墜落し砂埃が舞う。その瞬間、私達の背後からもう一体の鬼の気配を感じた。私は刀を鞘から抜き、背後に現れた鬼の攻撃を弾いた。
炭治郎もすぐに刀を抜き、私の隣に走り寄ると「悪い納豆!」と言ってすぐに二体の鬼に視線を戻す。また鬼の攻撃が来ると構える私と炭治郎を他所にその二体の鬼は何やら争いを始める。どっちが私たちを喰うのか揉めているようだ。結果として二体の鬼は「早い者勝ちだ!」と言いながら私達に向かって突進してくる。それに迎え撃とうと、刀を持ち直したとき、隣にいた炭治郎が私を庇うようにして前に出た。


「水の呼吸 肆ノ型 打ち潮」


それはまるで川の水が流れていくように打ち込まれる。あっという間に二体とも鬼の頸が跳ねられ、鬼は灰となって消えた。刀を鞘に戻した炭治郎は手を握りしめたあと、なぜか泣き出した。驚いた私が炭治郎に駆け寄ると炭治郎は「鍛練は無駄じゃなかった…!」と嬉しそうに呟いていた。それを見てやっぱり炭治郎も死ぬほどつらい鍛練をしていたのかと確信する。私がポロポロと涙をこぼす炭治郎の頭を撫でると、炭治郎の涙はピタリと止んだ。そして炭治郎は私を真剣な目で見つめると、こう言った。

「納豆のことは俺が守るから。だから納豆は俺の後ろに居てくれ!」……と。


「い……やいやいや、炭治郎。ここは最終選別なんだから自分の力でなんとかしなきゃだめだよ!」


内心、ちょっと炭治郎の言葉にドキドキして流されそうになった自分がいた。だが師範のこととこの二年間の鍛練を思い出すと、自分で鬼を斬って七日間を生き抜かなければと思い直した。だけど炭治郎は不満そう。


「……炭治郎、二年ぶりに再会できたところ悪いんだけど私これから一人で行動するよ」
「な、なんでだ!?一人なんて危険すぎる!!一緒に行動したほうが、」
「炭治郎〜……。確かに私は炭治郎達に会うために鍛練したきたけど、最終選別を通過したら私も一人の鬼殺隊になるわけだよ?だったらこの最終選別で自分がどのくらいの実力なのか知っておきたいの」
「ゔ〜ん……」
「絶対七日間生き残るから……ね?七日間後にまた会おうよ、炭治郎。どっちにしろここで死ぬようならこれから先私はきっとすぐに死んじゃうだろうから」
「…………わ、分かった」


渋りに渋っていた炭治郎だが私が諦めずに押し続けた結果、折れてくれた。許しが出たのならこれは良いと私は炭治郎にありがとうと言うと手を振って、あの日のように「またね!」と言って立ち去った。さすがにもう、「またね」の言葉を実現させるために二年も費やしたくないよね。


そして私はこのあとすぐ、とある珍妙なたんぽぽさんと出会うことになる。

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