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善逸side


今日は俺にとって人生で一番嫌な日。最終選別なんて行きたくなかったけど、じいちゃんにボコボコにされて無理矢理行かされた。最終選別の前にこんなにボロボロになってる奴俺以外にいないんじゃない?選別の会場に来てもほとんど野郎ばかりで俺にとって唯一の癒しである女の子はたったの二人しかいなかった。一人はめっちゃ可愛いし、ニコニコしてて蝶々と戯れている子。もう一人は可愛いっていうよりは綺麗寄りでずっと気になってたんだけどその子は後に現れた男と何か良い雰囲気になり始めるし。なんだよあれ、恋仲かよふざけんな!!!とか思いながら山の中に入ったら早々に鬼に追いかけられるし、俺は一生懸命走ってんのに全然撒けないしで散々だった。見苦しいのは分かってるけど、木によじ登って俺は震えていて、下では鬼が俺を待ち構えていた。そこに現れたのはあの綺麗系の女の子。怯えた様子も見せずに鬼を自分へと誘導するとあっという間に鬼を倒してしまった。そして鬼がいなくなった後、俺達がいる場所には藤の花の匂いが充満していた。その子は怯える俺を見て優しく微笑みながら「降りてきなよ」と言ってきた。この瞬間俺の心臓は見事にその子に射ぬかれてしまったのだ。強いし、可愛いし、優しいし、こんな子と結婚できたら万々歳じゃないか!と結婚を迫ったらその子は困った表情で俺を見ていた。それから流れに身を任せて二人で話をする。その子は納豆ちゃんと言って、俺の話を真剣に聞いてくれた。俺はそれが凄く嬉しかった。
納豆ちゃんからは不思議な音がする。優しいには優しいんだけど、ふとした瞬間に凄く冷たい音になる。急に人が変わったみたいに。冷たくなると言ってもどちらかというと冷静になる感じなんだけど。見た感じ俺と同い年ぐらいに見えるのに俺より大人っぽくてどこか達観していた。そして多分納豆ちゃんも俺と同じで何かにすがっている。納豆ちゃんが今の状態でいられるのはすがることができるモノがあるからこそだ。それが無かったら今頃納豆ちゃんはどうなっていたんだろう。心が空っぽの状態で生きていたかもしれない。こんなにちゃんとした子でもすがることがあるのだと思ったら、完全に自分勝手だけど少しだけ弱虫な自分が許されたように気がした。だから納豆ちゃんの不安定なココロを聞いていると自然と俺も落ち着いた。
話を聞き終わった納豆ちゃんがどこかに逃げようとしたから必死でその細い腰にしがみつく。困惑したような、呆れたような、そんな表情の納豆ちゃんが俺を見下ろしたあと、ようやく俺から逃げるのを諦めたらしくその場に再び腰を下ろした。


「納豆ちゃんもしかしてお腹空いてるの!?」
「えっ、何で分かったの!?」
「そういう音が聞こえたから!」
「音……?」
「俺が立派な魚を獲ってあげるよ!だから結婚しよう!!!」
「どうして魚が結婚に繋がるのか分からないよ、善逸……」
「魚が俺の愛ってことだよ♡」
「魚が愛ってなんか複雑な気分だよ……」


納豆ちゃんはなんだかんだ言いながら、俺が獲って焼いた魚を美味しそうに食べてくれた。「ありがとう、善逸」と言って笑う納豆ちゃんはもう女神なのかもしれない。
でもやっぱり俺が「結婚してくれ!」と言うと必ず冷えきった目をして「無理だから」と言ってきた。はあ〜〜〜そんな納豆ちゃんも可愛いんじゃ〜〜〜〜(崩壊)
ちなみにあの恋仲(疑惑)のことを聞いてみたら「炭治郎は友達だよ」と言ったから納豆ちゃんは今一人身というわけで。表には出さなかったけど俺は心の中で歓喜しながら暴れまわっていた。


「あぁ〜〜……納豆ちゃん可愛い、無理しんどい、結婚しよ」
「……善逸って、変わってるね。私なんかに結婚しようって言ってくるとか」
「納豆ちゃんは『なんか』じゃないよ。すっっっごく魅力的だから!!!」
「うーーん、そうかなぁ…」
「少なくとも俺からしたらそうだから!!」
「ありがとう、善逸」


悲観的な所も素敵だよ、なんて言ったら間違いなく引かれるだろうからそれは黙っておくことにした。

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