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目を覚ますと真っ先に視界に飛び込んできたのはどこかの家屋の天井。ほんのりと薫る薬品の匂い。私はベッドに寝かされていた。折ったであろう両腕は丁寧に包帯に巻かれている。
ここは何処だろう。誰が私を此処に運んできたのかな。善逸……は、無理か。そういえばいつの間に私気を失っていたの…?
体を起こそうと腕を動かそうとすると、ズキンッと鋭い痛みが走る。思わず「い゙っだぃ!!」と叫びながら飛び起きた。


「起きられましたか?」
「どっ、どちらさまですか!?!?」


全く気が付かなかったが、私の寝ていた側には二つ結びの女の子が手拭いを持ちながら立っていた。その女の子がいきなり声をかけてきたせいで私は大袈裟に反応してしまう。女の子はそんな私の様子を全く気にすることなく「私の名前はアオイです」と言い、頭を下げてきた。まるで大人のようなしっかりとした態度に私もつられてアオイさんに向かって頭を下げた。
そして頭を上げたそのとき、アオイさんの奥に見覚えのある金髪の人がベッドで寝ているのが見えた。その人は間違いなく、私を那田蜘蛛山で身を張って助けてくれた人。
──……我妻善逸。
更に反対側には、伊之助もベッドで眠っていた。


「彼等はまだ目を覚ましていません。でも直に目を覚ますでしょう」
「そうですか……。あ、ありがとうございます」
「いえ。これも私の役割なので」
「…あの!ちょっとお聞きしたいんですけど、此処は何処なんですか…?」
「…あぁ、此処は『蟲柱 胡蝶しのぶ様』の蝶屋敷です。任務で負傷した方々は藤の屋敷か此処で治療されていきます。貴女方は先日の那田蜘蛛山での任務の際に重症を負ったので『隠』の方々に運ばれて来たんですよ」
「そうだったんですね!本当にありがとうございます!」


改めて感謝の意味を込めて深く頭を下げた。
アオイさんは私を一瞥いちべつした後、恐らく私達の治療に使ったであろう包帯や手拭い、水を持って「それでは失礼します」と言って部屋を出ていった。
私達しか居なくなった部屋の空気は何だか懐かしい気がした。藤の屋敷の時からまだ全然時間は経っていない。私達が別れたのは那田蜘蛛山の入り口付近で。それより前はむしろ離れている事の方が当たり前だった筈なのに。皆と居る時間は、過ごす時間は、楽しくて幸せで永遠のようにも感じられる。……もしあの時死んでいたら、二度と皆に会うことも出来なかったんだ。
どうしても暗い感情が頭と心の中を支配し始めた時、隣で寝る善逸の鼻提灯がパチンっ!と破裂した。


「んん〜……っ、ふへへ…、そんなぁ〜……大胆、すぎるよ……納豆ちゃん……♡」
「……」
「んー…………ふがッ!」


何やら寝言を言う善逸に身の危険を感じた私は善逸の鼻を摘んだ。いきなり鼻から息が出来なくなった善逸は目をクワッと見開いて「な、何!?何があったのさ!!」と慌てふためきながら体を起こした。


「って、納豆ちゃん!……あれ、ここ何処だ?」


私が目覚めた時と同じような反応をする善逸に私はアオイさんからして貰った説明を善逸にも話す。すると徐々に善逸の顔色が悪くなっていき、善逸が今の手足が短くなっている自分の姿を見た瞬間白目を向いて気絶してしまった。やっぱり寝覚めの善逸にはまだ刺激が強過ぎたらしい。確かに私も目が覚めて手足縮んでたら驚きすぎて失神してしまうかもしれないけど。とりあえず気絶した善逸に何度も呼びかけると再び善逸の意識が戻る。そのとき丁度、私の声で目が覚めたのか伊之助も「…あ゙?」と何故か掠れた声を上げながら頭だけ私達の方に向けてきた。


「あ、伊之助!無事で良かった……。ところでどうしてそんなに声が掠れてるの…?」
「あれてか炭治郎と禰豆子ちゃん居なくねえか!?」
「……確かに!!」


衝撃の事実に気づいてしまった私と善逸はそっちでは何があったのか、炭治郎達は無事なのかと伊之助に詰め寄る。
そして何だかいつもよりも恐ろしいくらいに大人しい伊之助は言った。



「ゴメンネ弱クッテ」

……と。

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