10

「失礼ですがお館様。何故このような者を柱合会議に呼んだのか御説明頂きたい」
「納豆は以前から私が少し目をつけていたんだ。実は納豆の育手には個人的に世話になってね。その子に育てられた納豆に会ってみたいと私が思ってしまっただけなんだ」
「……成程」
「蜜璃には先日、納豆との合同任務を命じていたから納豆とは顔見知りのはずだよね?」
「は、はい!納豆ちゃんはとっってもいい子でした!!そして凄く可愛いですっ!!継子にしたいとも思いました!!」


蜜璃さんがあまりにも食い気味に言うので回りの人達も少し唖然としてしまっている。でも何だか蜜璃さんらしいなと思って蜜璃さんを見ながら少しにやけてしまう。それに気付いた蜜璃さんは嬉しそうに笑って控えめに手を振ってきた。流石にお館様と他の柱の方々の前で手を振り返すことは出来ないので頭を下げておく。すると蜜璃さんはしょんぼり…とした様子でしゅんとしてしまった。ちょっと罪悪感があるけど今はごめんなさい!あとでちゃんっとお話しますからね!!
お館様は「二人は仲が良いみたいだね」と言って私達に優しく笑いかける。その微笑みに蜜璃さんがキュンッ!と容易く撃ち抜かれたのが想像出来てしまった。ほんの少し話していただけだけど、お館様は柱の方々に本当に好かれているのだと感じた。確かに上手く言えないけれど何となく分かる。私もお館様が好きなんだと思う。まるで父のようなお館様。私達のことをよく考えてくださっているのが雰囲気で伝わってくる。嗚呼…この人がお館様だから、柱は、鬼殺隊は、この人に着いていこうと思うんだ。


「納豆、怪我がまだ治っていないのに連れ出してしまってごめんね」
「いえ……私は大丈夫、ですので…」
「しのぶ、納豆の怪我の容態は?」
「そうですね。昨日の夜診察させて貰った所、納豆さんは怪我が常人より少し治りやすいことが分かったので両腕の骨折も直ぐに治ると思います。回復の速さには恐らく彼女の呼吸の仕方が関わっているのかと」
「そうかい。ありがとうしのぶ。では、納豆」
「はい」
「今日からしのぶの屋敷ではなく、蜜璃の屋敷に移動してもらえるかな?」
「え!?」「本当ですか!?」


お館様のいきなりの発言に私と蜜璃さんの驚きの声が重なる。この言葉にはしのぶさん…?もギョッとしており、他の柱の人達も「嘘だろ」という表情でお館様を見ている。だがお館様はその笑みを全く絶やさない。それはまるで「本当だよ」と言っているかのよう。別に蜜璃さんの屋敷に行くのは良い。だけど、怪我人は蝶屋敷でとアオイさんから先に聞かされていた私からすると「え、蝶屋敷じゃなくていいの?」状態である。蜜璃さんはとても嬉しそうで、最早目に見えるくらいに♡を撒き散らしている。あれ、なんか今、小芭内さんに睨まれた気がするんだけど。怖い怖い。


「頼んだよ蜜璃」
「はい!私にお任せ下さい!」


ドンッと胸を叩く蜜璃さん。うん、可愛い。
するとお館様は柱の方々を見渡しながらゆっくりと口を開いた。


「ごめんね皆、少し席を外してもらえるかい?」


柱の方々の視線がとても痛かった。




‐‐‐‐‐‐




「あのお館様、柱の方々を出払ってまで私に話したい事は何でしょうか…?」
「そうだね。私がこれから話したいことは君の育手…いや、『浩二』と言うべきか」
「!」


それは紛れもなく私の師範、藤崎浩二の名前だった。


「浩二にはとても世話になったよ。あまり詳しくは言えないけど、この産屋敷家は早死にの家系でね。少しでも長生きできるようにと代々、神職の一族から妻を貰っているんだ。そして産屋敷一族には少々不思議な力があってね」
「不思議な力、ですか?」
「あぁ、納豆にも少し身に覚えがあるんじゃないかと思う。不思議な力…簡単に言うと予知のようなものかな。または直感とも言える」
「え…」
「ふふっ。こうなると少し親近感が湧いてくるね。君達『藤の呼吸』の使い手は第六感に長けている。だから日常生活や鬼を狩る時もたまに感じる・・・ことがあるんじゃないかい?」
「あっ、あり、あります……!すごく…!!」


まるで先程の蜜璃さんのように私は食い気味になってしまった。でもお館様の言うことが的を得すぎていてどうしても興奮が治まらなかった。


「浩二も納豆と同じだった。納豆は特に気にしてはいないみたいだから良かったけど、当時の浩二は自分の優れた第六感が嫌いだったらしい。初めて話を聞いた時もずっと顔を顰めていた。…あぁ、とても懐かしい」
「師範が…自分の第六感を嫌っていた…?」
「今はもう自分の中で整理がついているみたいだから気にしてはいないようだけど。昔はそうだったんだよ。でも私は浩二のその第六感に本当に助けられた。私はあくまで予知のようなものだけど、当時の浩二の第六感は神職のそれ・・に近くてね。……本当に何度も世話になった」


神職のそれ、とはもしかして霊的な話になってしまうのだろうか。だとしたら私の第六感は全くそっち系じゃないからよく分からないなあ。でもそっか…。師範は嫌だったんだ。この第六感が。私は特に嫌だと思ったことは無いけど、以前聞いた師範の子供の頃はかなり複雑だったようだし、それでかなり苦労したのかもしれない。


「いきなりこんな話をしてしまってすまない。でも納豆には言っておきたかったんだ。あの子はどうしても隠してしまう癖があるから」
「……し、師範がお世話になりました…」
「いえいえ、こちらこそ。ふふっ」


お館様がとても楽しそうに笑う。昔の頃の師範を私は全然知らないからこういう所で師範の話が聞けるのは不思議な感じ。でも面白い。


「納豆、頑張って。私は応援しているよ。君が最終選別を通って任務に当たり始めた頃に浩二から手紙が届いたんだ。手紙には君のことが沢山書かれていた。大好きなんだろうね、納豆のことが…」
「あはは……」
「そして君がいずれ『柱』となりうる人材だということも書かれていたよ」
「えぇっ!?」


いきなりのカミングアウトに私は叫ぶ。
お館様は目を細めて優しく笑う。慈悲深いその笑みはどこか炭治郎に重なって見えた。


「納豆はもっと強くなれる。だから蜜璃の元で更に頑張るんだ」


その言葉でどうしてお館様が私を蝶屋敷から蜜璃さんの屋敷に移そうとしたのか、ようやく理由が分かった。
お館様は私の可能性を信じようとしているのだ。
……すごく、嬉しい。




「ありがとう、ございます…っ!!」




──私はこの人の為に頑張りたい。

また一つ、守りたい物ができた。





話が終わったあと、お館様が柱の方々に戻ってくるように呼びかけると光の速さで戻ってきたのでかなり驚いた。柱の人(特に強面の人と小芭内さん)はジトっ…とした目で私を見てきたが、私の心はとても晴れやかだった。師範だけじゃない。お館様も応援してくれている。そう考えると幾らでも頑張れる。私はもっと強くならなくてはいけない。応援してくれる人がいて、何より果たさなければいけない目的もある。私の本当の始まりはここからだ。





……あれ、そういえば何か忘れてるような気がする。







‐‐‐‐‐‐‐‐‐

大正コソコソ噂話



※忘れられた人1 村田さん
「俺もう帰っていいのかな?」


※忘れられた人2 炭治郎
「納豆が全く戻ってこない…!!!」


ちなみに炭治郎達には柱合会議から三日後に納豆としばらく会えないということを聞かされたそうですよ!発狂ものだね!!

TOP