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柱合会議が終わり、お館様が退室なされた後村田さんに一緒には帰れないことを伝えようと思ったら、村田さんは一足先に帰ってしまっていたらしい。炭治郎達に伝えて欲しかった事が幾つかあったけど帰ってしまったものは仕方がない。後で手紙でも送るとしよう。お館様が居なくなったあとの柱プラス私だけが残された部屋の空気はいたたまれないったらありゃしない。なんかピリピリしてる人も居るし。いや確かにね、いきなり私みたいな正体不明の奴が柱合会議に呼ばれて親愛なるお館様と二人っきりで話していたら警戒するのも分かりますよ?だけどもうちょっと優しくなってくれても良いんじゃないですかね。というか小芭内さんに至っては完全に私怨じゃないですか。蜜璃さんにちょっかい出されたと思ってムカついてるんですよあの人。惚れてるんですね蜜璃さんに。はいはい分かります。
もう蜜璃さんとトンズラこいても良いのかなーと私が考えていたら、お館様に「しのぶ」と呼ばれていた綺麗な女性の方がこの変な空気を汲み取ってくれたらしく、まるで蝶が舞ったかのような美しい笑みを浮かべて「改めまして、私は蟲柱 胡蝶しのぶと言います。よろしくお願いしますね」と自己紹介をしてくれた。すると私の隣でもじもじとしていた蜜璃さんがパア!と表情を明るくして「しのぶちゃん…!」と、とても嬉しそうに笑う。女性陣が道を切り開いてくれたお陰で男性陣の柱の方々も順番に口を開いていく。
岩柱の悲鳴嶼行冥様。炎柱の煉獄杏寿郎様。音柱の宇髄天元様。蛇柱の伊黒小芭内様。風柱の不死川実弥様。霞柱の時透無一郎様。水柱の冨岡義勇様。そして、蟲柱の胡蝶しのぶ様に恋柱の蜜璃さん。この九人が現・鬼殺隊士の中で最も位の高い方々。
こうして落ち着いて向かい合ってみるとかなり凄い気迫である。練りに練られた強さがまるで刺すように肌に伝わってくる。……凄い。
ところであの水柱様は自分の名前を言う時に他の方々は『〜柱』と最初に付けて言っていたのに、この方だけは何も言わずに淡々とご自分の名前を言っただけ。すかさず蜜璃さんが「冨岡さんは水柱なのよ!」とフォローを入れてくれたから分かったけど。ただの言葉足らずなのか、それとも何か深い訳でもあるのだろうか。どちらにせよあまり深く関わらない方が相手の為にも良さげだ。


「私は神崎納豆と申します。先程は御無礼な事をしてしまい申し訳ありませんでした」


柱合会議の終わり際にお館様に柱にはちゃんと敬意を払うんだよ?と言われたので、一応さっきのことを謝っておく。特に悪いことをした覚えはないけど!!こうやって折れて上の立場の人に頭下げるのも社会勉強だからねッ!!
綺麗に九十度のお辞儀をすると「良いんですよ〜」と蟲柱様が優しく微笑みながら私の頭を撫でて顔を上げさせてくれた。顔を上げた際にその美しいお顔があまりにも近い距離にあったことに驚き、一気にボンッ!と顔に熱が集まる。口からは「あ…!えっと、うぅ…」という言葉にならない声しか出てこず、そんな挙動不審な私の姿に蟲柱様は「あらあら!」とご機嫌そうに笑った。蟲柱様はよく綺麗に笑うお方だ。
……でもどうしてだろう。凄く綺麗な微笑みなのに、どこか陰りを感じる。その微笑みは強い感情を押し殺しているような、何かをとても我慢しているようにも感じられた。だけどこれにも簡単には踏み込まない方が良いんだろうな。こういうことに踏み込める人は、…馬鹿みたいに素直で優しい人だけだ。例えば炭治郎みたいな──


「うむ!甘露寺が継子にしたいと言うくらいだ、見込みのある剣士なのだろう!」
「そうなんですよ煉獄さん!とても才能のある子だと思います♡」
「…その実力がいかほどのものか気になるが、今は肝心の腕を怪我しているとのことだ。即日の鍛錬は叶うまい。やれやれ、剣士ともあるものが両の腕を折るとは。いささか気が緩んでいるのではないのか?」
「うぐっ…!す、すみません……」


炎柱様が私に笑いかけてくださったと思ったら、そこにすぐさま蛇柱様が割り込んできて大分心の痛い部分を突かれてしまった。た、確かに…剣士が腕を怪我して刀を持てなかったら鬼とも戦えないから直ぐに死んでしまう。私は今回、すぐそばに善逸が居なかったら確実に死んでいたくらいの大きく重大で、剣士が最もしてはならない怪我をしてしまったんだ。


そのときどうやら落ち込んでしまったのが表にも出てしまっていたらしく、ネチネチとした小言を言ってきた当人である蛇柱様も含めて柱の方は「うっ…(どうしようこの子)」と、なってしまっていたらしい。(後日談)
そしてこれも後日談なのだが、やはり私の予想通りその日私が柱合会議に参加する前に炭治郎と禰豆子ちゃんが連れてこられていたらしく、そこで風柱様と蛇柱様と炭治郎がちょっとした衝突を起こしてしまい、その件があったからか風柱様と蛇柱様は礼儀正しい(してた)私の姿勢に割と好印象を抱いていたそうだ。どの話も蜜璃さんから聞かされた話だからもしかしたら蜜璃さんの『キュンキュンフィルター』で補正されてしまって良い感じの話になってしまっているだけかもしれないけど、とにかく私は柱の方々には嫌われていないとのこと。少し得をした気分。
そして実は以前、蜜璃さんは炎柱様の継子だったらしくそれ経由で私の怪我が治ったら炎柱様が稽古を付けに蜜璃さんの屋敷を訪ねに来てくれると約束してくれた。「ただし、稽古は死ぬほどキツいがな!」と言ってワハハ!と笑う炎柱様とは一度も視線が合わず、この人はどこを向いているんだろかと疑問に思った。
音柱様は今は少し忙しいらしくまた今度都合があった時にでも話をしようということに。水柱様はあの後特に会話を交わすこともなく気がついたら居なくなっていた。だからよくわからない人。
岩柱様は猫が好きらしい。とりあえずどうしたらそんなに筋肉がつくのかと聞いたら涙を流しながら「可哀想に…」と頭を撫でられた。だから私も何か泣いた。
霞柱様はずーーーーっと空を眺めてぼけっとしていた。この人もまた、何を見ているのか分からない。でもなんか炎柱様とは違ってどんなものにも興味が無いという雰囲気のお方。
蟲柱様には「しのぶさんで良いですよ」と、言われたのでこれからは素直にそう呼ばせてもらうことに。このとき、隣にいた蜜璃さんが「え!私の時は呼んでくれるまで時間掛かったのにしのぶちゃんはこんなにあっさりなの!?」とショックを受けていた。だけど「代わりに一緒に甘味処に行きませんか」と誘ったら秒で回復された。蜜璃さんは食べるのが大好きだからね!



炭治郎、善逸、伊之助。
なんかよく分からないけど私は上手く柱の方々に溶け込めているみたいだよ……!!!

しかし、怪我が完治した途端に始まった本当の地獄のような鍛錬に私が絶望するのはまた別のお話で。

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