12

しのぶさんが言っていた通り、私の両腕の骨折は想像していたよりもあっという間に治ってしまった。彼女曰く、私や師範の使う藤の呼吸は怪我の療養の時に効く呼吸の仕方に似ているから、その分怪我の治りが速いのでは無いかとのこと。よく分からなくて蜜璃さんと一緒にポカーンと口を開きながらしのぶさんの話を聞いていたら、説明することを諦めたしのぶさんは「とにかく怪我の治りが速くなります」と言って溜息をついた。教養が無くてすみません。療養の時に効く呼吸って言われても想像しにくいしよく分からない。蜜璃さんも同じ気持ちだったようだ。
そして今はもう完治しているので、蜜璃さんの屋敷のもとで朝から晩まで鍛錬をし続けている。時々鎹鴉を使ってしのぶさんが手紙を届けてくれるのだが、その内容には今炭治郎達はどのような容態なのかが記されている。今のところまだあの三人の怪我は治っていないそうだが、そのうち炭治郎と伊之助は動けるまで回復するそうだから、そこまで回復したら『機能回復訓練』をやらせるらしい。善逸は私達の中で一番重症だからまだ十分には動けないし訓練にも参加出来ない、と書かれたそこまでが手紙の内容。
三人が訓練を始めたらメキメキと実力を付けるに決まっている。私は今のうちに三人よりも先に進んでいなければ。自然と手紙を持つ手に力が入っていたようで、手紙はくしゃくしゃになっていた。…せっかくしのぶさんが書いてくれたのに申し訳ない。蜜璃さんはそんな心中が不穏な私を察したらしく、優しく笑いながら「鍛錬の続きをしましょうか!」と言って私の手を引くのだった。




「まず納豆ちゃんに覚えてもらいたいのは言わずもがな常中です!そのためには今よりももーーーっと鍛錬して肺を鍛えないといけないの……。大変だと思うけど、私もできるだけ協力するから頑張りましょう!」

「はい!よろしくお願いします!!」



それは師範に教えられ山に篭もりきっていた時の鍛錬よりも遥かにキツいものだった。私はそこまで寝込んでいた訳じゃないから体力自体はそれほど落ちているわけじゃないけど今の体力だと長い戦闘のとき、直ぐに戦えなくなってしまうとのことで、やっぱり最初は走り込みから始まった。鍛錬には蜜璃さんの屋敷の広大な敷地をフルに活用する。「手始めにこの屋敷の周りを200周から始めましょう!」という言葉に、酷く目眩がした。……うん、そうだよね。分かってたよ。分かってたけどさ。この屋敷の周りを200周って、呼吸使いながら走っても多分5時間以上掛かると思うんですけど本気ですか……?


「ちゃんと準備体操はしなきゃね!せっかくだし私も納豆ちゃんと一緒に走るわ!」
「え、良いんですか……!?」
「もちろん!こんな機会中々無いもの〜♡」
「あ、ありがとうございます……!」
「まず目標は3時間以内に走りきること!」
「……ゑ?」
「よしっ、なら準備体操して早速行きましょー!」


そして準備体操(ハードモード)を受けてヘロヘロになり、さらに襲いかかる屋敷200周という試練を乗り越えた後の私は、まるで屍のように屋敷の庭に転がっているのだった。
ちなみに記録は4時間20分。最後の最後まで気を抜かずに歯を食いしばって走り抜いたけどこれが私の限界。蜜璃さんは私が走るのを隣で応援しながらピッタリと並走していたのだが、やはり柱ということもあって息一つ切れていない。柱の蜜璃さんからしたら私のスピードは準備運動以下だったのかもしれない。そうだとしたらかなりダメージが……。
ヒュー…ヒュー…と、息が絶え絶えになる。頭上から蜜璃さんの「納豆ちゃん大丈夫!?」という声が聞こえてくるがそれに反応できる余裕もなかった。
それから少し時間が経ち、蜜璃さんが渡してくれた水を飲んでようやく息が整ってきたとき、蜜璃さんが「そろそろ大丈夫そうかしら…?」と恐る恐る尋ねてきた。蜜璃さんだからこうして優しくしてくれているけど、もしもこれが師範だったら問答無用で起こされるんだろうな。そう考えると私は今蜜璃さんにとても甘えてしまっているのかもしれない。
……良く、ないよね。


「続き、お願いします…!」
「えぇ!」


長時間走った反動でプルプルと震える足に鞭を打ち、私は蜜璃さん監修の地獄の特訓へと身を投げた。


‐‐‐‐‐‐


「納豆ちゃんはちょっと体が硬いみたいね……。体が柔らかければやれる事も増えるし、この機会に柔軟も出来るようにしましょう!!」
「は、はぃぃい……!」


まずは開脚!と言われて足を開くが私は体が硬く、百八十度開かないし、前に上体を倒してもお腹が地面に着くことも無い。親譲りの生粋の硬さだ。
私が苦戦しているのを見て蜜璃さんはうーんと頭を抱えると、「よし!」と言って私の前に足を百八十度開いて座り込んだ。これからどうするのか想像もつかない私が首を傾げていると蜜璃さんはニヤ〜と口角を吊り上げ、「行くわよ納豆ちゃんっ」と言って、無理やり私の足の内側に自分の足を滑り込ませて私の足をグイグイッと開かせてきた。


「あ゙ぁ゙ぁ゙っ!!みっ、蜜璃さん!!ムリっ!無理です無理ですっ!!!」
「無理なんかじゃない!納豆ちゃんならできるわ!だから頑張って納豆ちゃんっ♡(痛がってる姿が凄く可愛らしいわ……っ!♡)」
「あ゙ぁ゙ッ!更に開かせないでください!!これめっっっちゃ痛いんですよ゙……っ」
「ほら、頑張って頑張って♡♡」
「なんか蜜璃さん楽しんでませんか…!?」


生理的な涙が流れるのもどうでもいいと思えるくらいにはとてつもなく痛くて、このままブチブチィッと股がイカれてしまうのではないかと本気で思った。開かされすぎて、最早百八十度を超えてしまっている。やめてください、とかぶりを振るが蜜璃さんは頬を真っ赤に染めて、頑張って♡としか言ってくれないのだからもう彼女は鬼そのものだ。その様子はまるで痛がってる私を見るのが楽しくてしょうがないというようにも見える。蜜璃さんはSかMかって聞かれたら絶対にSだよこの人!!
そしてこの後、色々な体位(変な意味では無い)をさせられ、その度に蜜璃さんに泣かされ(変な意味では無い)、気づいたら私はベッドの上だった(変な意…以下略)。

TOP