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──……結論から言ってしまおう。
私は炎の呼吸も恋の呼吸も使うことはできなかった。だが最初から何となく分かってはいた。私の使う藤の呼吸は、師範が水の呼吸から派生させたもの。炎の呼吸とは真反対な時点で私に炎の適性は無いだろうなと踏んでいた。また、恋の呼吸は炎の呼吸から派生させたものだから、同様の理由で扱うことはできない。まあ、出来たらラッキーくらいにしか思っていなかったから特に何も感じないのだが、何故か私以上に蜜璃さんと煉獄さんがしょんぼり…としていた。だけどこれはこれでとても良い経験になったと思う。
私には那田蜘蛛山の一件からずっと考えていたことがあった。私と師範の使う藤の呼吸は他の呼吸と比べると技が特殊で、攻撃力にいまいち欠けている。技の精度を上げることも大事だと思っていた。だがそれだけでは駄目だと思う所まで来てしまったのだ。
私は……新しい型を、作ろうと思う。もっと攻撃に特化した型を。今のままでは駄目なんだ。
まさに炎の呼吸は私の理想とする『攻撃力の高い型』にピッタリの呼吸。だから、炎の呼吸または恋の呼吸を元にしようかと考えている。私に炎の呼吸や恋の呼吸は使えない。でもそれを私に使えるように改良したとすれば。…私にも、炎の呼吸や恋の呼吸に近い技を扱うことが出来るはずだ。かなり難しいことだとは分かっているけど、やってみるだけの価値はある。


「う〜〜〜…残念ねぇ……」
「だがしかたあるまい!すまなかった、神崎少女!」
「……いえ、逆に自分の次にやりたいことが見つかりました。ありがとうございます、お二人共」


お礼を告げて深々と頭を下げる。蜜璃さんと煉獄さんはお互いに顔を見合わせると笑みを零し、それぞれ私の頭を優しく撫でた。
その後、煉獄さんのご好意で手合わせして貰えることになり実際に打ち合ったのだが、私が煉獄さんに一撃を与えるどころか掠ることさえ出来なかっただけでなく、派手に首や腹に攻撃を食らってしまい、その勢いで吹き飛ばされる。蜜璃さんの時のデジャブをまた感じることになるとは思ってもみなかった。駆け寄って来た蜜璃さんに「納豆ちゃんはよく頑張ったわ…!」と背中を撫でられながら励まされていたら、後ろから煉獄さんが声を投げかけてきた。


「まだ常中を扱い始めたばかりだからか時々呼吸が乱れている。呼吸を安定させるのも今後の課題だな!」
「はい……」
「あと握力も鍛えると良い。限度はあるだろうが、だからと言って嘆くことはせず自分に出来る最大限を突き詰めるんだ。それが君の強さに直結するだろう」
「自分に出来る、最大限……」
「そして君はまだ速く動けるようになる。足の筋肉を鍛えろ。常中を安定して使えるようになれば尚更だ」
「…はい!」


次々と私の改善点を指摘されていく。さすが柱だ。僅かな手合わせでここまで相手の欠点が見えてくるものなのだろうか。


「色々指摘させてもらったが、君に十分な素質と見込みはある」
「本当ですか…!?」
「嗚呼、嘘は言わん。隊士の質が落ちてきているとは思っていたが、中にはこうして力を付けてきている隊士も居ると分かって安心した!あのときの鬼を連れた少年も見込みがあった」


鬼を連れた少年とは、炭治郎のことだ。


「……自分が女だからとやるせなくなる時があるだろう」
「!」
「だが乗り越えろ。いくら女であっても鬼殺隊であることには変わりない。女だというだけで鬼が素直に頸を差し出してくれる訳でもないんだ」
「はい」
「神崎少女、自分を誇れ。ここまで来たのは紛れもなく君自身が鍛錬を積み重ねた結果だ。男相手に引け目を感じることなどない。君の可能性は、ここに居る俺達が保証しよう!」
「……っ!!」


真っ直ぐすぎるその目と、初めて、視線が合った。



‐‐‐‐‐‐



「……蜜璃さん」
「なぁに?納豆ちゃん」
「煉獄さんって、凄く格好いい人ですね」
「そうなの!!煉獄さんはとても素敵な人なのよねぇ〜♡ 納豆ちゃんに分かってもらえて嬉しいわ!!」


煉獄さんが帰った後、私と蜜璃さんは早めの夕餉を食べていた。私はこの後、蜜璃さんの屋敷を出て蝶屋敷へと向かう。常中を修得したので、次の任務に向けて炭治郎達と行動を共にするようにと伝令が来たのだ。
早めにご飯を食べ終える。あまり日が暮れると途中で鬼に出くわしてしまうかもしれないから。
「行かないでぇぇぇぇ!!」と泣きつく蜜璃さんを宥めるのに苦労しつつも何とか身支度を整え、私たちは屋敷の表へと出る。蜜璃さんから土産として持たされた桜餅を片手に、蜜璃さんと向き合う。


「本当にありがとうございました」
「いえいえ、私も凄く楽しかったわ!これからも鍛錬頑張ってね!」
「はい!!」


最後にもう一度頭を下げて、蜜璃さんに背を向ける。


「納豆ちゃん!」


背後から呼び止められ、頭だけ後ろにいる蜜璃さんの方をむく。




「また、お互いに生きていたら会いましょう!」




その言葉は遠回しに『死』を感じさせる発言だった。以前の私だったら、その言葉に敏感に反応していたに違いない。
だけど今は、自然とその言葉に、笑みを浮かべていた。

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