17

──……全ては私の勘違いだったのだと、ようやく気がついた。


誰よりも自分を女だからと忌避していたのは私自身だった。善逸達はむしろ私の力を認めてくれていた上で、私の身を案じて接してくれていたんだ。勝手に被害妄想を膨らませて逃げ隠れをしていたのは他でもない私自身。その事実にようやく気付いたとき、ただただ恥ずかしいと思った。一人で悶々としていた私の姿は傍から見たらさぞ滑稽な姿だっただろう。今この瞬間に「そうだったんだ」「よかった…」と、気の利いた事を言ってあげられたら良かったが、羞恥心のど真ん中に立っていた私には口をパクパクとさせることしか出来ず申し訳なくなる。
冷静なって今思い返せば、私の事を誰一人として「女だから」という理由で蔑んできた人は居ないというのに、何故私はこんなにも自分のことを悲観していたのだろうか。落ち着いてよく考えれば容易に分かる事だったのに。
優しい彼らが頑張っている人を馬鹿にするなんてこと天地がひっくり返ったとしても起こりうるわけ無かった。いつから私は一人で悩むようになったんだっけ。どうして本音を炭治郎達に言えなかったんだろう。
……きっと、自分のことしか見えていなくて周りを見渡すような心の余裕が無くなっていたのかな。
蜜璃さんと出会い、任務を共にして、上には上がいると実感させられ、一人で焦ってから回る。それらが私の中で起こっていた事の全容だった。私の反応は当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。だからこそ、尚更馬鹿馬鹿しい。どんなに私が弱かったとしても、塞ぎ込むことこそ一番やってはいけないことだった。あのときの煉獄さんも遠回しに私にそう伝えたかったんだ。

私は彼らに伝えなければいけない。
本当の気持ちも、隠してきたことも、全て。
だって私達は仲間だから。
気を張り続けながら接していくなんて、本当に…馬鹿みたいだね。


「…あのね、善逸……!」


善逸に伝えなければ…と口を開いた瞬間、私の口元に善逸の人差し指が触れた。まるで「しー…」と、子供を静かにさせる時の動作に少しムッとした。何だか子供扱いをされているみたいだ。いやたしかに、されても仕方ないなというくらいには迷ってしまったけども……。…そんなあからさまにやらなくても良いじゃん。
でも私が彼に遠回しな迷惑を掛けてしまった事には変わりなく、下手に反抗はできないなと思った。だから私は善逸に言われるがまま、大人しく口を閉じて黙った。


「その先は、朝になったら俺達に教えてほしい」


つい先程まで薄く開いていた善逸の瞼が、完全に閉じてしまっていた。
……さっき一瞬だったが、いつもの善逸が出てきたような気がした。今はもうこの静かな善逸に戻ってしまったみたいだけど。もしも本当にさっきの善逸がいつもの善逸だったとしたら、私の話を聞いたのかな。
色々と気になることはあったけど、今の善逸が「明日」と言うのなら私はそれに従おう。言わないといけないのは、善逸だけじゃない。炭治郎や伊之助にも私は言わなくては。……あー、伊之助においては理解してくれるかは分からないけどね…?でもそれがまた伊之助らしいのか。きっと深く考えずに「俺に着いてこい!」とか言ってくれるんだろうな。
善逸は……とりあえず何か叫んできそう。それで最終的には「俺もっと頑張るよおおお!」とか言ってきたり?
炭治郎はどうだろう。あの人、私のことを妹としてみている節があるからなぁ。「気づいてあげられなくてごめんな…!」とか言って抱きしめてくるのかも。うん、想像しやすい。
私達はそのくらいの関係でいるのが一番上手くいくんだろうなっていうのは簡単に分かった。でもどうしてだろう。
…………胸の奥に、何かが突っかかるんだ。


「難しいことは後で考えれば良いんじゃないかな」



善逸が微笑む。

──少し、寂しそうに。



「…うん、そうだね。そうするよ」



何で善逸がそんな顔をするのか、私には全く分からなかった。

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