2
なほちゃん達に惜しまれつつ、蝶屋敷を出た私達四人。しばらく歩き、次の任務先である駅に着いた。すると炭治郎から実はまだ指令は来ていなかったという爆弾発言が投下され、それに対して善逸が「まだ居てよかったじゃんしのぶさん家に!!」と、怒りを顕にした。だけど私はついこの間豆太郎から指令来てたんだけどな……。本当は善逸達にはまだ来てなかったのか。なんでだろう?まあ、結局皆同じ合同任務なら一緒に来た方が効率良いだろうから私は皆で出てきて正解だったと思うんだけど…。善逸からすれば安全で女の子に囲まれる状況に一日でも長く居たいのだろう。うん、善逸らしい。
ボカボカと炭治郎を殴る善逸を宥めていると伊之助が「オイッ!!」と急に声を荒らげた。怒り心頭中の善逸にはその大きな声もかなり駄目な音だったようで、いつもなら怯んでしまう伊之助に向かって「何だようるさいな!」と暴言を吐く。これは善逸さんかなりお怒りみたいです。伊之助にまで声を荒らげるなんて…。
「なんだあの生き物はー!」
伊之助が興奮していた理由は、私達の目の前に停車している真っ黒な『汽車』だった。山育ちの伊之助からすると汽車とは程遠い生活を送っていたため、この物体が超巨大な生き物だと勘違いしているみたいだ。言うて私も田舎育ちだから本当だったら汽車なんて見ることのない生活を送っていたんだろうけど、生憎私は前世の記憶を持っているんでね。現役女子高生の毎朝の登下校にはバスや電車が欠かせませんよ。高校が家から近ければ自転車とかで行けるんだろうけども。ていうかそっかー今は大正時代だからもう汽車はあるんだっけ。すっかり忘れていた。
この世界では初めて汽車に乗るなあ…。ちょっと緊張する。それにしても、次の任務先はこの汽車に乗って行くのかな?豆太郎からはこの汽車に乗って炎柱の煉獄さんと合流せよって言われただけだから詳しいことは私もまだ知らないんだよね。
「土地の主だ…」とか言って怯える伊之助に善逸は呆れた顔で「いや汽車だよ。しらねぇのかよ」と言うが、伊之助は完全に汽車を土地の主だと思っており、いの一番に攻め込もうとしている。私も善逸に加担して伊之助を落ち着かせようと口を開いた時、炭治郎が無駄にキリッとした顔で「この土地の守り神かもしれないだろう。それから急に攻撃するのも良くない」と言いだした。その言葉に呆れる善逸。
そして善逸が炭治郎にこれは乗り物なんだと教えていると、我慢しきれなくなった伊之助が汽車に思い切り体当たりをし始めた。その行為にギョッと私達が目を見開いた時、離れたところからこの駅の警備の人と思わしき人達がピーピーッ!と笛を吹きながら「やめなさい!」と言って走りよってきたのだが、私達の持っている刀をみるなり顔色を変えて「警官を呼べ!」と騒ぎ出す。「逃げろー!」という善逸の掛け声を合図に私達は一斉に走り出した。伊之助が変な所に行ってしまわないように、彼の手をしっかりと握りしめて。
……なんかもう、この時点で先が思いやられるよ。
しばらく警備の人達から逃げ回り、なんとか彼らを撒くことに成功した。また見つかった時に騒がれないよう自分達の刀をそれぞれ背中に隠しす。善逸が切符を買ってきてくれるらしく、静かにしてろよと言って居なくなった。残された私達は善逸が戻ってくるのをいい子にして待つ。隣に炭治郎が居ると蝶屋敷での事を思い出してムカついてしまうので、私は常に炭治郎と私の間に伊之助を配置して障害物を設けていた。私がそんなことを考えているとは全く考えていないであろう炭治郎は伊之助に「大人しくするんだぞ〜」と、まるでお兄ちゃんのように何度も言い聞かせていた。
そして戻ってきた善逸から切符を受け取り私達はようやく列車の中へと足を踏み入れることが出来た。炭治郎の鼻を使ってこれから合流しなくてはならない煉獄さんを探して移動していると、とある車両の中に入った途端に「うまい!うまい!」という聞き覚えのある大きな声が聞こえてきた。耳のいい善逸は、その大声がかなり耳にキタらしく、耳を塞いでガタガタと震えている。
「うまい!」と何度も叫んでいる人の傍に寄ると、その見覚えのある髪も目に付いた。この人に会うのは蜜璃さんの屋敷以来だ。煉獄さんってこんなに声大きかったっけ……。改めて聞くとかなりの大音量ですね。
炭治郎は煉獄さんのどこを見ているのか分からない視線にとても戸惑っており「どこ見てるんですか!?」と突っ込んでいた。う〜ん、炭治郎…そこを気にしたら負けだ。
炭治郎は煉獄さんの隣に座り、私は炭治郎から禰豆子ちゃんの入った箱を受け取って横に箱を置き、炭治郎と煉獄さんと向かい合う状態で座る。善逸と伊之助は通路を挟んで隣の席に並んで座った。煉獄さんの食べていたであろう沢山の空の弁当箱をゴミ処理をする女の人達が大変そうに始末していた。
炭治郎は煉獄さんに聞きたかったという『ヒノカミ神楽』の事について問うが、「知らん!」という煉獄さんの言葉にバッサリと切り捨てられてしまう。炭治郎が「ちょっともう少し…」と困り果てると、煉獄さんは「俺の継子になるといい面倒を見てやろう!」とかなりぶっ飛んだ話をし始める。そこから刀の色の話が始まり、炭治郎が呆然としているのにも関わらず煉獄さんは話を続け、最終的には「俺の所で鍛えてあげようもう安心だ!」という言葉で終わってしまった。……なんか炭治郎お疲れ様。蜜璃さんの屋敷で手合わせをしてくれたときも思ったけど、煉獄さんって面倒みがいいよなあ。弟さんが居るとかなんとか言ってたっけ。この世界の長男の人って何でこうも皆凄いの?それが永遠の謎だ。
「神崎少女、久しいな!」
「あ、お久しぶりです煉獄さん」
「あれから鍛錬の方はどうだ?」
「そうですね。皆さんに協力して貰えたこともあってかなり順調だと思います!」
「それは良かった。もし行き詰まったなら君も俺の所に来るといい!面倒を見てやろう!」
「あ、ありがとうございます…」
「だが神崎少女のことは甘露寺が継子として迎えたいと言っていたからな…俺の継子として迎えるのは難しいだろう!とても残念だ!」
本当に残念だと思ってるんですか?と聴きたくなるくらいに豪快に笑う煉獄さん。隣に座る炭治郎はもう形容しがたい表情になってしまっている。初めて会うタイプだもんなあ、煉獄さんって。炭治郎が挙動不審になるのもわかる気がするよ。私はなんかほら……精神年齢が皆さんより上なものですから……ね?
とか言ってるけど実際に私が生きていたのは十六歳までだからそこまで大人の世界を知っているわけじゃないんだけどさ。
煉獄さんとの会話に気を取られていたら、向こう側にいる伊之助が窓から身を乗り出してはしゃいでいるのを善逸が「おい!」と止める声が聞こえた。私もすかさず「伊之助!」と呼びかけたのだが、テンションがぶち上がっている伊之助には届かず断念。それを見ていた煉獄さんが「危険だぞ!いつ鬼が出てくるか分からないんだ!」と言う。
その瞬間、私たちの空気が凍った。
「え…」「え?」
私と善逸の声が重なった。
「嘘でしょ!?鬼出るんですかこの汽車!」
「出る!」
「出んのかい!!嫌ァーーッ!鬼の所に移動してるんじゃなくてここに出るの!?嫌ァーーッ!俺降りる!!」
「ぜ、善逸…」
「納豆ちゃんもッ!俺、納豆ちゃんと禰豆子ちゃんを連れてここで降りるうううッ!!」
煉獄さんは情けなく涙を流す善逸を見ても全く動揺することなく、更に善逸が追い込まれるようなことを次々に言っていく。
最早この二人の会話と絵面はさながら漫才のようで。私は一周回って呆れ果ててしまう。
せっかく常中も修得してその効果を実践で確かめられるっていうのに…。善逸は弱くないんだから、彼にはそろそろ腹を括ることを覚えさせないと。
密かに作戦を企てていると、車両の奥から車掌さんが「切符…拝見…致します…」と言いながら現れた。私は善逸から貰った切符を出すと、煉獄さんが車掌さんに切符に切れ込みを入れてもらうのを待ち、次に車掌さんに自分の切符を渡した。そのとき視界の端で炭治郎が何故か眉間に皺を寄せたのがチラッと見えた。
どうしたのと問いかける間も無く──切符にパチンっと切れ込みが入れられた。
そして私の意識は無くなった。