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目の回りが濡れていて、私は夢を見ながら泣いていたんだと気づいた。手の甲で涙を拭うおうとすると、手首にどうしてか燃き切れた縄が結ばれていた。目の前にはまだ目を瞑った煉獄さんがいる。しかしその隣に炭治郎の姿はない。先に夢から醒めて鬼の元に行ってしまったのかも。私も速く向かわなきゃ……!
目の前にいる煉獄さんの肩を揺さぶって必死に声をかける。
「煉獄さん!煉獄さん起きてください!」
「……ぅっ、ぁ…。此処は……」
「列車です!列車の中です!!鬼の血鬼術で眠らされました…!」
すんなりと目を開けた煉獄さんに安堵しつつ、辺りを見回すと眠りにつく一般の乗客の人達を襲うかのように気味の悪い生き物が列車の中には溢れ返っていた。急いで乗客の人達を助けに行こうと背に隠していた刀を取り出そうと動いた時、腕が禰豆子ちゃんが入っている箱にぶつかってしまい、箱が床にガコンッと派手な音をたてて落下した。
咄嗟に「ごめん禰豆子ちゃん!」と言って箱を持ち上げたのだが、そのときの重量感は普段、禰豆子ちゃんが入っている時よりもかなり軽い。嫌な予感がして箱の扉を開くと、中はもぬけの殻。私は通路を挟んで隣の席でぐったりと眠りについている善逸と伊之助に「起きて!!」と体を揺さぶり二人を起こそうとする。
と、それと同時に列車の頭上から炭治郎の声で「煉獄さん、善逸、伊之助、納豆!寝てる場合じゃない!起きてくれ頼む!」という叫び声が聞こえた。今、炭治郎は列車の上にいるの…!?
そしてその炭治郎の声を聞いた途端、伊之助は「ウォオオオ」と唸りだし、次の瞬間には列車の天井を突き破る位の大ジャンプをキメて意識が覚醒した。す、凄い目覚め方…。
とりあえず伊之助は起きたのでこの車両は伊之助に任せようと思い、隣の車両に移動すると、そこにはあの生き物から乗客を守って戦う禰豆子ちゃんの姿があった。鬼特有の鋭い爪で必死に戦う禰豆子ちゃんだったがこの数相手ではさすがに不利なようで四方八方から襲いかかってきた生き物に手足の自由を奪われてしまう。私は刀を抜きながら禰豆子ちゃんの元に駆け寄り、技を繰り出す。
「藤の呼吸 壱ノ型 八重藤花」
全集中 常中を習得してから初めて繰り出した藤の呼吸。前とは比べ物にならないくらい体が動く。そして相手の動きもより確かに目で終えるようになった。
――――何より今日の私はすこぶる調子がいい。
思わず笑ってしまうほどに体が素早く且つ的確に動いた。今までの私が八重藤花の攻撃で繰り出すことのできたのは8連撃が最高だった。しかし、笑えるほど調子が良い今の私が繰り出した八重藤花は8連撃を優に上回った12連撃を相手に決めた。
パアンッと四散する気味の悪い生き物。そんな私の様子を禰豆子ちゃんが驚いた表情で私を見ていた。
「ありがとう、禰豆子ちゃん。禰豆子ちゃんが私達を鬼の血鬼術から助けてくれたんだよね」
本当に禰豆子ちゃんは最高の友達だよ。
禰豆子ちゃんは鬼になってしまったかもしれないけど、人の為に戦う禰豆子ちゃんは誰が何と言おうと私達の仲間だから。
こんな大変な状況なのにも関わらず、人の為に戦う禰豆子ちゃんの姿を見ていたらとても幸せな気持ちになってしまった。
そんな油断しきった私の背後にあの生き物が迫ってきていた。私が気づくよりも先に禰豆子ちゃんが気づき「ム゙ーッ!!」と、叫んで私の後ろを指さした。
やばい、と刀を持ち直してもう一度壱ノ型を繰り出そうとしたとき、視界のど真ん中を見慣れた黄色が物凄い速さで駆け抜け、周りに湧いていた生き物達を一刀両断にしていった。その速さで風が巻き起こり髪の毛がフワリと宙を舞う。……鍛錬のおかげで前よりも遥かに速くなったなぁ。
「禰豆子ちゃんと納豆ちゃんは俺が守る」
「…!」
「……遅いよ善逸」
……なにその男前な登場の仕方。まるで良いとこ取りをするかのようなその登場に色々と言ってやりたくなったけど今回は不覚にもドキッとしてしまったので何も言わないでおこう…。
禰豆子ちゃんと二人で善逸を見つめていると善逸は「守るっ。フガフガ…プピー」と鼻ちょうちんを出して、夢から醒めたのか醒めてないのか分からない曖昧な状態だった。
その様子に一気に私達のトキメキが冷めてしまったのは言うまでもない。
はあ…と溜め息をついたとき、眠った善逸が私の肩に手をポンと置いて先頭車両の方を指さす。…あ、今この善逸はあの眠った時に出てくる善逸だ。
「ここは俺と禰豆子ちゃんがやるから、納豆ちゃんは炭治郎と伊之助を追ってくれ!」
「…分かった。ここは任せたよ!」
「ああ!」「むっ!」
善逸と禰豆子ちゃんなら大丈夫だと判断した私は二人に手を振って善逸の言葉通り炭治郎と伊之助が居る先頭車両の方に向かって走り出した。
どうしてだろう。なんだかとても嫌な胸騒ぎがする。
先頭車両まで向かうついでに途中に居る生き物達も斬って倒す。時々、ドンッと凄い音がして列車が揺れる。……多分これは煉獄さんが移動してる音だから気にしなくてもいいかな。少なくとも鬼の攻撃ではないはず。
気味の悪い生き物の攻撃を掻い潜りながら先頭車両の扉の前まで辿り着く。ガラッと先頭の運転席と車両を繋ぐ扉を開くとそこは辺り一面にさっきまで倒してきた生き物に沢山の目が付いたモノが蠢いており、その中心で炭治郎と伊之助が苦戦していた。
二人の下の床は刻まれてボロボロになって更に下が丸見えになり、そこにはまるで隠されていたかのように『大きな骨』があった。それを見て何となくこの列車自体と鬼が融合してしまったのだと察する。とにかく今二人はこの骨を斬ろうとしているのだ。
「炭治郎、伊之助……!」
「納豆子!来んのがおっせぇよ!!」
「納豆っ、悪いが協力してくれ!」
伊之助の怒声に続いて炭治郎が声を上げる。
炭治郎が何を望んでいるのかが手に取るように分かった。
「大丈夫!この気持ち悪いのは私と伊之助に任せて!」
私がそう言うのと同時に伊之助が技を出そうと構えた。
「獣の呼吸 肆ノ牙 切細裂き」
「藤の呼吸 伍ノ型
伍ノ型 藤爛漫は藤の呼吸で一番攻撃力の強い技。その分、技を繰り出す時に腕に負担がかかるのだが抉るように斬れるから、こういう狭い場所での戦闘の時はほとんど負け無しなんだよね…っ!!!
ズガガッと一気に生き物を切り刻む。そして完全に骨が露呈した。
そこを炭治郎が待っていた、と言わんばかりに斬りこんだ。
「ヒノカミ神楽
――――そして骨は、完全に断ち切られた。