6

「伊之助、そっちの人達をお願い!」
「俺に指図すんな! でも俺は親分だから行ってやるよッ」
「うん。ありがとう〜!」


列車の横転の影響で怪我をしてしまったり、意識のない人達を安全な外に運び出して応急処置をしていく。乗客の人達は皆鬼の血鬼術で眠っているのかと思ったが、中には鬼が倒されたのと列車の横転の衝撃で意識が戻っている人達もいた。しかし、列車が横転したその衝撃で再び意識を失ってしまう人も少なくはなくて、意識のない人間を肩に担いで歩くのはかなり辛い。怪我人の中では特に割れた硝子で切ってしまって血を流す人は多かった。だが前方の車両の怪我人の数に比べて後方の車両の怪我人の数は少なめに感じる。確かこの人達が居た後方の車両には煉獄さんが居たはず。だから多分、煉獄さんが列車が横転する際に乗客達を守ったのだろう。流石、柱だ。たった一人でこんなに沢山の人を……。
まだ年端もいかない子供からご老人まで。列車には幅広い年齢層が乗っていた。救助するときにその人の歳によって対応の仕方を変えなければいけないのが少し面倒だったが、怪我の処置をすると皆さん「ありがとう」「助かったよ」と、お礼を言ってきてくれたのが唯一の心の救い。早く隠の人達が来てくれればもう少し楽になるんだけど、まだ彼らが来る様子は無いみたいだ。もうちょっと頑張らなければ…。
そういえば、善逸と禰豆子ちゃんはどこに――ドンッ!


「キャアアアアッ!!」
「いっ、今のは何の音なんだ!?」


地面も空気も揺れるような衝撃と、まるで何かが墜落してきたかのような大きな音。ただでさえ列車の横転で混乱していた乗客の人達は更に混乱してしまい、ザワザワと騒ぎ出す。そんな中、私と伊之助は同じ方向を見る。
……音が聞こえたのは炭治郎が居る方からだ。そして何よりこの禍々しい雰囲気は――――鬼だ。


「……なんで、鬼は倒したのに」
「これはさっきの鬼じゃねぇ」


私は怪我をしてまともに動けない炭治郎のことを思い出した。
早く戻らないと炭治郎が危ない…!!
そう思って私が炭治郎の居る方に戻ろうとしたとき、すかさず伊之助が私の腕を掴んでそれを阻んだ。


「俺達は権八郎にコイツらを頼まれたんだろうがッ!! ちゃんとコイツら助けねえとアイツきっとすんげぇ怒るぜ!」
「でも…炭治ろ、」
「あっちにはギョロギョロ目ん玉の奴が行ってる!俺達はコッチをさっさと片付けてから行くぞ!」
「…っ、うん!」


私達は乗客達の救出する手を早める。そして救出が佳境に入ってきたとき、私は、数人の子供と禰豆子ちゃんを抱きしめて倒れていた善逸を見つけた。すぐに善逸達の元に走る。私がいきなり走り出したことで伊之助も善逸達が倒れているのを見付けて、私と一緒に善逸達の元へ向かおうとする。私はそんな伊之助に「善逸達は私が何とかするから、伊之助は先に炭治郎の方に行って!」と、彼を引き止めた。伊之助は足を止め、少し逡巡すると踵を返して「…おう、分かった!」と言って炭治郎の居る方へ走っていった。
そして善逸達の元に辿り着いた私は、まず事前に回収しておいた禰豆子ちゃんを入れる箱の中に、気持ちよさそうに眠っている禰豆子ちゃんを入れる。次に善逸が抱き締めている子供達に怪我が無いかを確認し、その子達の手当を素早く済ませ、最後に善逸を診る。
善逸は頭部から血を流しており、意識が無い。私は持っていた手拭いで善逸の頭部の出血部分を抑えて止血を試みる。幸い、そこまで血は流れていない。一先ず安堵してハァ…とため息をついた時、善逸の指先がピクリと少しだけ動いた。


「……善逸?」
「ゔぅ……っ、納豆…ちゃん?」


善逸の瞼が小さく見開かれる。そして彼の黄色い瞳と視線が合った。


「そうだよ。乗客達を守ってくれてありがとう、善逸」
「うひひ……ご褒美に抱き締めてくれても良いんだよ…?」
「ごめんちょっとそれはムリかな」
「……」


どうやら通常運転みたいだし、意識もハッキリしているようだからとりあえず良かった。
善逸は私が彼の頭部を抑えていることから止血していることを察したのか、「自分でやるよ」と言って自分で抑える。まだ体を動かすのは無理そうだけど手や足なんかは動くみたいだ。


「禰豆子ちゃんは…?」
「もう箱に戻してるよ。……禰豆子ちゃんに無理させちゃったね」
「…そうだね。でもやっぱり禰豆子ちゃんは鬼だとしても俺達の味方だって再認識できた」
「うん。本当、竈門家は兄も妹も優しくて強いよね」
「ほんっとそれ…」


善逸が苦笑しながら、禰豆子ちゃんの入った箱を優しく撫でる。


「…………善逸って禰豆子ちゃんのことが好きなの?」
「ゴッッホォッ!!な、何言い出すの急にィ!?」
「あ、ごめん。何か前々からそうなんじゃないかなって思ってたから、つい…」
「ということは納豆ちゃんってもしかして現在進行形で俺の好きな人は禰豆子ちゃんだと思ってるってこと!?」
「え、うん。そういうことだけど……」
「ウッッッソでしょお!?!?」


思わずこちらの耳がキーンッとするような声で叫ぶ善逸に顔を顰める。
目玉が飛び出そうなほど目をカッと見開いている善逸の顔はまるでギャグ漫画のようだ。
……え、てか違うの? 逆にそれ以外に何かあるの?


「だって善逸よく禰豆子ちゃんに花とか贈ってるし、夜に禰豆子ちゃん連れ出して星空とか見てるじゃん」
「ウグッッ! そ、そうなんだけどそうじゃなくて……!」


モジモジとする善逸にますます私は訳が分からなくなる。


「えっ、てか納豆ちゃん…最終選別で俺達が別れるときに俺の言った言葉覚えてないの……?」
「善逸が言った言葉……?」
「ほ、ほらあ…! お、俺がもしも強くなったら…俺との結婚のことも…真面目に考えてくれるって……」
「…………ん?」
「もしかして忘れちゃったのォ!? 納豆ちゃんが『強い人が好き』って言ったから、俺頑張って鍛錬してきたんだよ!?」


えっどうしよう、あんまり覚えてない……。本当にそんなことあったっけ…?(※ありました)
……あ、そういえばなんか、善逸から意味の分からない求婚を受けて苦し紛れのその場しのぎになんかそんなことを言ったような覚えが……?(※それです)
半泣き状態になって「忘れるなんて酷い!」と喚いている善逸に「ごめん!」と何度も謝り続ける。「酷い!」「ごめん!」の会話を繰り返し続けてると、途中で善逸が「はあああ……」と盛大なため息をつき、「…もう良いよ」と言ったのを区切りにようやく私達の攻防が終わった。だが依然として変わらず善逸はジトッ…とした目で私を見つめてくる。


「……とりあえず今は許すけど、帰ったらちゃんっっと話し合いさせてもらうからね」
「は、はい…」


素直に私が頷くと善逸は満足そうに「よし!」と笑う。私がそんな善逸の機嫌を伺っていると、善逸は一際深く息を吸って吐いた。そして私の方をチラリと横目で見ると、小さく笑って口を開く。


「俺はもう平気だから、炭治郎達の方に行っても大丈夫だよ。禰豆子ちゃんもちゃんと連れて戻るから」
「え、でもあっちには煉獄さんとか伊之助ももう向かってるし……」
「でも心配なんだろ? 炭治郎のことが」
「…………うん」
「本当に俺は大丈夫。……だから行って?」
「……ありがとう!」


善逸の言葉に背中を押され、私は善逸にお礼を言って立ち上がり、炭治郎達の居る方へ走り出した。



















煉獄さん達と鬼が戦っているのか、近づいていくにつれて激しい戦闘音が聞こえてくる。
……大丈夫。まだ生きてる。まだ、戦ってる。





不意に一際大きな音がして辺りが土煙で覆われ、視界が悪くなる。





さっきまでの激しい戦闘音が嘘のように静まり返っていた。





少しずつ土煙が晴れていって目の前が見えてくる。





少し離れた場所に、地面に膝をつく炭治郎とその横で突っ立っている伊之助がいた。二人は何故か同じ方向を見つめている。





「あ! 二人共、どうした…の………ッ!?」





土煙が晴れたその先に、確かに煉獄さんはいた。





「死んでしまうぞ杏寿郎!! 鬼になれ! 鬼になると言え!!」






――――鬼に腹を貫かれた煉獄さんが、確かにそこにいたのだ。

TOP