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そこからの私の行動は素早かった。状況を綺麗に把握出来た訳では無かったけれど、頭の中で「煉獄さんを助けろ」と危険信号が鳴り響き、私は前方に居た炭治郎と伊之助を追い越して煉獄さんの元へと全速力で走った。恐らく生きてきた中で一番速く。一瞬で本能がそのくらい速く走らなくてはならない状況だと判断したぐらいに事態は深刻だったから。走りながら柄を握り、勢いよく刀を抜く。
後ろで、私が二人を追い抜いた事でハッと意識を取り戻した炭治郎が重体の体をすぐさま起こして声を張り上げた。

「伊之助動けーッ! 煉獄さんの為に動けーッ!!」

炭治郎の声に背中を押されるかのように走り出した伊之助が私の数歩後ろを爆走して着いてくるのが気配で分かった。伊之助のすぐ近くには炭治郎も居る。
柄を握り直すと、何やらギシッという鈍い音が聞こえてきたが、そんなものは気にもとめず私は型の発動に移った。


「藤の呼吸 陸ノ型 藤爛ま――――」


ーー鬼の頸まで後、少しだった。


「グアアアアッ!!」


ドンッと鬼は足を地面に叩き付け、煉獄さんを貫いていた腕が抜けないと判断すると、自ら肘辺りから腕を切り落とし、私の刃から逃げるかのように上空に飛び上がった。
……嗚呼、私はしくじってしまったんだ。悲しい程に冷静さを帯びた脳内で、ようやく私は今の戦況を悟る。煉獄さんがここまで逃がさずに捕らえていてくれた獲物を……私は逃がしてしまったのか。
鬼が飛び上がった時の衝撃で私達は後方に吹き飛んでいく。酷い絶望感に襲われるなか、スローモーションのように見える景色に上空で私達を見下ろす鬼と偶然しっかりと目が合った。まるで、私達の姿を目に焼き付けているかのように大きく見開かれている鬼の目には何やら刻まれた文字が。
ーーーーあれは、上弦の…………

「ーー……ッ!!」

私の目が完全に鬼の目に刻まれた文字を捉えた瞬間、私は驚きのあまり上空にいる鬼よりも大きく、目を見開いた。
そして数ヶ月前に私が最終選別から帰ってきた日の夜、師範から聞いた話と言葉が頭の中でフラッシュバックした。


「師範。これはこれから私が鬼殺隊に身を置く上での新しい目標です」

「私が師範の分まで上弦の鬼の仇を討ちます」


あの時私が師範に言った言葉が鮮明に蘇ってくる。
まだひよっ子同然の私が掲げた、無謀にも等しい目標。師範はそんな私を咎めることなく、ただ優しく笑ってくれた。
それで次に師範が私に言った言葉はーー


「託したぞ、納豆」

「お前が倒すべき鬼は……ーー



ーーーー……『上弦の参』だ」




夜明けの近い夜空は仄かに明るさを含んでおり、鬼の目に刻まれた『上弦』『参』という文字が悲しいくらいにハッキリと見えてしまったのだ。
そして次の瞬間にはあっという間に体中の血液が煮え滾るように熱くなるのを感じた。

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