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ーー炎柱の煉獄杏寿郎が死亡したという話は鬼殺隊員の間に瞬くまに広がった。
煉獄さんに憧れて彼のような柱を目指していた者は泣き、あの炎柱を持ってしても適わなかった上弦の力に畏怖する者は自分の実力に限界を感じた。奮い立つ者もいれば、反対に心を折られた者もいる。それほどまでに柱の影響力は凄く、名の通り、鬼殺隊の精神の柱でもあった。
また一人、私達は貴い命を亡くした。
あの無限列車の一件で重症を負った炭治郎は未だに蝶屋敷で眠っており、善逸も軽くはない怪我を負ったので意識は回復しているがまだ療養に務めている。一方、私と伊之助はほぼ無傷と言っても過言ではないくらい五体満足で生還したため、今日も今日とて任務に励んでいた。煉獄さんが亡くなって間もないこともあり、私達の間にも未だしんみりとした空気が流れていた。だけど私達は煉獄さんから信じ、未来を託されたのだ。立ち止まっている暇はない。あの日、伊之助も泣きながら、座り込んでべそをかく私達に怒鳴った。人はいつか死んで、土に還ること。信じられたのなら、その期待に応えなければならないこと。
ーーーー私達は鬼殺隊だ。
今日命があったとしても、明日や明後日にまたこうして笑っていられるとは限らない。鬼と比べると短く儚いこの命を精一杯燃や続けて、鬼を斬る。それが残された私達にできる最善だ。
「カァーッ! カァーッ! 次ハ合同任務! 嘴平伊之助ト合同任務ーッ! 西南西ヘト向カエ!」
「よっしゃあッ、次の任務だぜ! さっさと行くぞ、納豆子!!」
「うん、行こう!」
ーーこうして生きていられる今日が、何よりも尊い。
「……伊之助、あの場面は絶対私が囮で斬りこんでから伊之助がトドメを刺しに行くやつだったよね? 相手は二体居たんだよ。なんでわざわざご丁寧に敵の真正面から向かってったの?? 片方は途中で私が仕留めたから良かったけど……」
「あ? んなもん、真正面でも背後からでも確実に仕留められっからに決まってんだろ!」
「でももっと安全な戦い方を、」
「戦いに安全もクソもあるかよ!」
「あ、いや、うーん……そう言われるとなんとも言えない……」
私と伊之助の合同任務は、とある廃屋敷に住み着いて近くの住民を捕まえて食べていた双子の鬼の討伐だった。双子ということもあって攻撃の息がピッタリで血鬼術も兄の方が攻撃特化なのに対し、弟の方が防御型というなんともやりにくい相手だったが、最後は伊之助のゴリ押しで道が開け、そこに私も斬りこんで伊之助が兄の方を、そして私が弟の方の頸を斬った。蝶屋敷に帰るまでの道中、伊之助にあのゴリ押しは良くないと言っていたんだけど、確かに安全な戦いっていうのも何か変だ。蝶屋敷に戻ってくると、入り口に善逸となほちゃんとすみちゃんときよちゃんの四人が私達に「おーい!」と手を振りながら立っていた。私たちが帰ってくるのを鴉の伝達で聞いて待っていてくれたらしい。それが嬉しくて、胸がぽかぽかと暖かくなる。
「炭治郎は起きた?」
「それがまだ起きてないんだよぉ……」
「……そっかぁ」
「で、でもそのうちすぐにひょっこり起きて動き回ってるよ! きっと!!」
「……うん、そうだよね」
「そうそう!!」
控えめに笑みを浮かべると、善逸も安心したように頬を緩めて笑った。
そしてこの言葉の通り、目が覚めた炭治郎が誰にも何も言わずに蝶屋敷を抜け出して煉獄家へと向かったのがこの翌日の話である。