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泣き腫らした目を冷やしながら、私はお父さんにもう一つ聞きたいことについて話し始めた。

「もう一つ聞きたいことがあるの。上弦の参……猗窩座について」
「お前、もしかして……!」
「うん。会ったよ、上弦の参に」

アイツの顔を思い出すだけで怒りが湧き上がってくる。叫び出したくなるような怒りを押さえつけながら、私はお父さんに先日あった無限列車での任務の話をした。上弦の参に会ったこと、格闘の末に炎柱が死亡したこと、でも乗客を一人も死なせなかったこと全て。煉獄さんの最期の笑顔を思い出すと胸がじくじくと痛む。私達の実力不足が原因で煉獄さんを助けられなかった。私達はまだまだ弱い。これじゃあ上弦の参を倒すどころか、鬼の始祖である鬼舞辻無惨を倒すなんて夢のまた夢。まだまだ強くならなければいけない。私達が足を止めている暇はない。

「私……どうしても猗窩座を倒したい。だから前に猗窩座と戦ったことがあるお父さんに、猗窩座の戦い方について分かること全部教えて欲しいの…!!」

お父さんは「戦い方…」と呟き、少しの間考え込む。

「まず納豆も一度見たなら分かると思うが、アイツの基本の型はまさに“武道”のソレだ。恐ろしいくらいに極められている。一撃でもまともに食らえば死は免れないだろう」
「……攻撃を避ける為には上弦の鬼の動きを追えるようになることと、体を動かせるようになることが大事だね」
「あともう一つ。アイツには戦闘においての『羅針盤』のようなものがある」
「『羅針盤』……?」
「羅針盤は相手の闘気を見る。殺気を出せば全ての攻撃を読まれ、アイツの頸を斬るのはまず不可能だ。だが逆に言えば、アイツの『羅針盤』を狂わせることができれば……」
「頸を斬ることができる、だよね?」

私の言葉に師範は頷く。しばらくの間はこの件について考えることが課題になりそうだ。
話を終え、ふぅっと息をついて外を見ると、日が暮れ始めていた。あぁ、もうそろそろ帰らないと。お父さんに「もう帰るね」と言うと、「今日は泊まっていけばいいんじゃないか?」と返ってくる。

「皆に何も言わずに抜け出してきちゃったの」
苦笑しながらそう言うと、お父さんも苦笑して「なるほどな」と言った。



「……そういえば、納豆は俺が父さんだって気づいたのは鬼の血鬼術で見せられた夢がきっかけなのか?」
「うーん……実を言うとね、それよりも前からもしかして?って思うこともあったの」
「……おぉ、それはまた。何を見てそう思ったんだ?」

ちょっと必死なお父さんが面白くて、私はクスクスと小さく笑う。

「藤の呼吸だよ」
「……藤の呼吸?」
「前々から何か変だなとは思ってたの。藤の呼吸が私とお父さんにしか使えないって聞いた時から。お父さんは第六感が発達した者にしか使えないって言ってたけど、私は違うと思う。多分、藤の呼吸は“私とお父さんにしか”使えないんだと思うよ。……これは勘だけどね」
「……納豆の勘は絶対当たるもんなぁ」
「それに、お父さんは知ってるか分からないんだけどさ」
「おう?」
「藤の花言葉、知ってる?」



藤の花言葉は「優しさ」「歓迎」「恋に酔う」
そして、


ーーーー『決して離れない』



「お父さんの想いが強過ぎて、藤の呼吸が生まれたんじゃないかな?」


お父さんはポカン……と口を開けて数秒間抜けな面を晒したあと、はぁぁぁ…とため息をついて頭を抱える。

「もう確定だろ……」

恥ずかしそうなお父さんの姿に、私は腹を抱えて大笑いした。

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