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「乙藤さん、良かったら俺と一緒に帰らないか?」
「あ、竈門くん。……うん、良いよ。私も一緒に帰りたいなって思ってたから」
「なら良かった!じゃあ帰ろうか」
「うん」


後ろで三奈達が「ヒューヒュー!」と囃し立ててくるのを軽く流しながら、私達は皆に別れを告げて学校を出た。
あの体力テストで怪我をしたのは緑谷くんだけで、今日見た感じ緑谷くんの個性はパワー系のものだと思う。でも自分の個性であんな怪我するものなのかなぁ。私自身あまり個性について詳しくはないけど、少しだけ緑谷くんのことが引っかかっていた。
隣を歩く竈門くんは私に歩くスピードを合わせてくれているのか、普通に歩いていても竈門くんと距離が離れることはない。別に私が歩くスピードが遅いという訳では無いが、竈門くんは私よりも身長があるし足もその分長いので彼が普通に歩いたらもっと速く歩けているんだろうなと思った。女子に合わせて歩いてあげられるなんて…竈門くんは既に将来有望だ。
ジッ……と竈門くんを見つめすぎていたせいか、私からの視線に気付いた竈門くんが「ん?」と目をパチクリとさせながら首を傾げる。


「どうかしたか?」
「あ!いや別に……。ごめんね、ジロジロ見ちゃって……!」
「別に大丈夫だよ。そんなに気にしないでくれ」


な、なんだろうこの人……。凄く……こう……やりずらい!!!なんかもっとこう無いかな!?私の周りにいた鬼殺隊の男の人ってもっとこうトゲトゲしくて女を見下してる感じの人ばかりだったよ!?あ、師範は別だけどね!竈門くんって雰囲気がもう優男な感じだから何か辛い!てか顔が良い!直視しずらいよ!?
色んな考えが頭の中でゴチャゴチャになる。


「そういえば今日の乙藤さん凄かったな〜」
「えっ……私が?」


ふいに竈門くんがそんなことを言い出した。


「体力テストの時だよ。乙藤さん特に個性を使っている様子もなかったし。今日は全集中の呼吸で受けていたんだろう?」
「そうだけど……ただ単に個性がそっち向きじゃ無かったからで……。それを言うなら竈門くんだってそうでしょ?」
「確かに俺も個性は使ってないよ。でも結果として乙藤さんに負けてしまったから。乙藤さん凄いなと思っていたんだ。全集中を覚えるのも厳しい鍛錬が必要だし、女の子を差別するつもりは無いけど、女の子は男よりも筋肉とかつきにくいから乙藤さんは本当に頑張ったんだなって!」
「……ありがとう、竈門くん。竈門くんは本当に優しいね」
「え、そんなことないよ?」
「ある。自覚が無いだけで、竈門くんに救われる人は沢山いるはずだよ」
「うーん。そうかな?」
「うん、私が保証する」


私がそう言うと、竈門くんは嬉しそうに「ありがとう」と言って笑った。竈門くんは少しお兄さんみたいだ。もしかして妹さんや弟くんでも居るのかな。私の勘が竈門くんは長男だって言ってるわぁ……。


「そうだ!乙藤さんが良ければだけど俺の事『竈門くん』じゃなくて、下の名前の『炭治郎』って呼んでくれないか?」
「え、良いの?」
「あぁ!ぜひともお願いしたい!」
「じゃあ……これからは炭治郎って呼ぶね。代わりに炭治郎も私のこと納豆って呼んでよ」
「分かった。これからは俺も納豆って呼ぶ!……何だかこういうの良いな」
「そう?」
「あぁ、すごく。同じ鬼殺隊士だからか納豆とは仲間って感じがする」
「あ〜確かに。同じ学校になったし、もしかしたら合同任務とかで当たるかもね!」
「かもしれないな。そのときはよろしく!」


このときの私達は分からないことだらけだった。何故、この雄英高校に鬼殺隊枠というものが存在しているのか。私達1年A組に降りかかる災厄に便乗してやってくる『悪』の気配にも気づかず。
鬼殺隊が背負う『滅』の文字。その重大さを未熟な私達はまだ知らない。
今見ているものは全ての事実のほんの一角でしかないということに私達が気付く日は遠い先のこと。

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