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翌日、登校してから始まったのは勉強のレベルは高いがごく普通の授業で、昨日のいきなりの体力テストの件が根強く記憶されていた私達は皆、心の中で「普通だ…」と思ったことだろう。授業の合間の休み時間も、隣の席の三奈と「案外普通だね」とお互い苦笑しながら話していた。その際、後ろの席の炭治郎が私の背中を控えめにチョンチョンとつついて「納豆、さっきの英語の授業のこの部分がよく分からなかったから少し教えてくれないかな?」と、ノートの解きかけの問題をシャーペンで指しながら申し訳なさそうに頼み込んできたので、私はそれに二つ返事でOKを出して炭治郎にその部分を教える。すると三奈も「そこ私も分からなかった所だ!教えてー!」と便乗してきたので結局三人でミニミニ勉強会を開いたりして過ごしていた。途中、近くを通りかかった飯田くんが「感心感心!」と言いながら通り過ぎて行ったときなんかは一瞬私達の中に沈黙が走ってから遅れて笑いがやってきたり。まるで普通の高校生活。ヒーロー科だからって身構えすぎてたのかな?なんて考えていたが、事が動き出したのは午後の授業のことだった。
この世界の平和の象徴であるオールマイトが教室に現れ、単位数の最も多いヒーロー基礎学の授業を始めることになり、これからやるのは、誰もが聞いたら胸踊るだろう──『戦闘訓練』。実は私も内心楽しみにしていた。最近、任務が回ってくることが少なかったこともあって、体が鈍っていたから久しぶりに動かしたいと思っていたのだ。多分炭治郎も同じ気持ちなのか、後ろから「うわあ!」と期待混じりの嬉しそうな声が聞こえた。
きっとここ最近は、私達鬼殺隊枠で入った者達は今の時期は大変だろうというお館様の計らいで、本来私達に回ってくるであろう任務を他の隊士の人に回されているのかもしれない。だとしたら凄く申し訳ない気持ちになる。ただでさえ普段から鬼と戦うなんてリスクを背負っているのに、その危険な任務を私達の代わりで沢山やらなければいけないんだ。死ぬ確率も増す。…私だったら、ちょっと嫌かなあ。
少しモヤッとした気持ちになっていたらいつの間にか自分達のヒーローコスチュームに着替える時間になっていたらしく、皆壁から出てきたケースを持って教室を出ようとしていた。つい「やば…!」と声を漏らして席から立ち上がったとき、私の机の上にゴトリと、私のコスチュームの入ったケースが置かれた。


「納豆のってこれで合ってるよね?一緒に更衣室まで行こー!」
「み、三奈……」


満面の笑みを浮かべた三奈が私のケースを持ってきてくれていたのだ。


「…ありがとう!」
「どういたしましてっ、速く行こ!」
「うん!」


机に置かれたケースを自分で持ち、私は三奈の隣を歩いて一緒に更衣室まで向かった。
…なんだろう、この気持ち。今までにだってこんな風に親切にしてくれた友達は勿論いた。だけど、三奈が「一緒に行こ!」と言ってくれた時いつもとは違う嬉しさがあったんだ。それが何なのかはよく分からないけど……。でもさすがヒーロー科。皆、人に優しいや。あ、今のところ爆豪君とかは抜いて…だけどね?


‐‐‐‐‐‐


「納豆のコスチューム可愛いー!」
「本当だ〜!いいなー!私なんてちゃんと要望書いて出さなかったからパツパツスーツになってしもた…」


私のコスチュームは……鬼殺隊の隊服である。背中の滅の文字を見られると鬼殺隊だとバレるかもしれないので白の羽織りも要望で出した。上は要望通りだったけど、隊服の下はなぜかスカートになっていた。多分あのゲス眼鏡前田さんの仕業だな…。恋柱様の隊服を手掛けたのもあの人だったっけ。胸元が空いてないだけまだマシか……。ま、これはこれで確かに可愛いから良いよね!
お茶子ちゃんはパツパツスーツで体のラインがしっかりと出ていたり、美奈のコスチュームも足のラインがくっきりと出るようなものになっている。スタイルがいいからこそ着れる服だ。でも私が一番驚いたのは八百万さんのコスチューム。あれは本当に驚いた。防御力がほぼゼロじゃん。本人曰く、個性の関係上服の表面積が少ない方が良いとの事。私にはあんな露出の多い服を着る勇気などないから、特に恥じらい無くあのコスチュームを着こなせる八百万さんのスタイルが羨ましい。発育の暴力すぎる。
そして全員着替え終え、更衣室から出ると男子の方も皆着替え終わった所だったらしく、表で偶然鉢合わせた。私が真っ先に視線が行ったのは炭治郎のコスチューム。炭治郎も私と同じで鬼殺隊の隊服の上に黒と緑の市松模様の羽織りを着ている。丁度、炭治郎も私の方を見ていたのかバチッと視線が合う。優しく微笑んできた炭治郎に軽く手を振った時、私は大変なことに気がついてしまった。
──これ、私と炭治郎がペアコスチュームとして見られてしまうのでは……???
まるでそう考えたのがフラグだったかのように、隣に居た三奈が私と炭治郎のコスチュームを見比べると「あれ?」と不思議そうに声を上げ、周りに聞こえるボリュームで「納豆と竈門のコスチューム…お揃いみたいじゃん!」と、叫んだ。
……あぁ、三奈よ。そういうときは何も言わずに自分の胸に秘めておいてくれ…。
同じ鬼殺隊だから仕方が無いとは言え、「何か恋人同士のペアルックみたい…」と今度は小さく呟いた三奈の言葉に顔に熱が集中するのを感じた。ごめん炭治郎…巻き込んじゃって……。
私は、本当に申し訳ないという気持ちを込めた視線を炭治郎に向けた。


「ちょっと二人とも!お互い赤くなられるとますます怪しいし、更に恋人感増すんですけど!?」
「それな、リア充滅びろ…」


視界に映った炭治郎は、まるで林檎かな?と思うくらいに頬を赤く染めて、恥ずかしそうに俯いていた。
そんな炭治郎の姿に、更に自分の顔が熱くなるのを感じた──

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