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「なぁ国見〜あの事件の犯人ってまだ宮城にいると思うか?」
「さぁね、そんなの知るわけないじゃん。まあ居たとしても俺達が狙われなきゃ別にいいや」
「お、お前って時々すげー怖いこと言うよな……」


今日も相変わらず天気は大雨。それに小学生が殺された事件のせいで今日から一週間部活が無くなった。自由な時間が増えるのは良いことだけど、もうすぐIHもあるからそこのところ大丈夫なのか?ま、教師達も仕事だし。自分達の学校から殺された人が出ましたーだなんてことになったら大問題になってしまうからこんなに慌てているんだろうな。
……それにしても、今日の及川さんはちょっと様子が可笑しかった気がする。落ち込んでいるっていうか、別の何かに気をとられている感じ。あの人も中々ぶっ飛んだことをするからなぁ。今回もそんな感じか?
金田一は今回の事件が怖いのかさっきから当たりをキョロキョロと見回して落ち着かない。こいつが動くたびに傘についた水滴が俺の制服にかかってくるからいい加減大人しくしていてほしい。


「く、国見!」
「なにさ……さっきからそわそわそわそわしてさ」
「悪い……。だけど、その……」
「……お前ほんと大丈夫なの?」


金田一の顔色がどんどん悪くなっていくのが俺にも確認でき、さすがに心配になってくる。だが、金田一の顔色は悪くなるばかりで、それよかさっきまでキョロキョロしていた金田一がある一点を見つめて固まりだした。
──そこは、俺達が今歩いている橋の下。川が流れている横の細い砂利道。


「あ、そこに、いる人が、ひっ、引きずってるのって……!!」


震える指で金田一が指した所に居たのは白いボロボロの服を着てなにやら人形のようなものを引きずってる女の人。雨のせいで視界が悪く引きずってるものが曖昧にしか見えない。俺は橋の手すりの所まで行き、身を乗り出すようにして女が引きずってるものを視界に捉えた。
…………その行為と女が俺達の方を振り向くのは同時のことだった。

「……!?」

女が引きずっていたもの、それは人形ではなく生きていた筈のもの……『人』だった。
大きさ的に小学生だろう。
そう思考が理解したとき、あの女が今回の事件の犯人だと気づいた。


「……逃げるぞ」
「え……?」
「行くぞ金田一!!」


俺のその一言で俺達は走りだしいち早くこの場から逃げようと必死に足を動かした。
なぜか俺達が向かった先は────及川さんの家だった。



















──ピンポーン

「こんなどしゃ降りの中誰だよ……」

吉川ちゃんにバッサリと切り捨てられてしまった後、俺は誰から見ても落ち込んでいるように見えたらしく帰るときも岩ちゃんから「大の男がウジウジしてんじゃねぇ!」と、回し蹴りを喰らわされた。俺に憑いた生き霊を吉川ちゃんに祓って貰ったあの日からほんの少し岩ちゃんは俺に対して優しくなった。
ほんの少しの変化でしか無いが、何年も一緒に居たからこそ分かる変化かな!

「はいは〜い、今出まーす」

ガチャリとドアを開けると、そこに立っていたのは顔面蒼白の金田一と国見ちゃんだった。金田一はまだしも普段表情を変えない国見ちゃんがこんな表情をしていることにただ事では無いことを悟る。


「いきなり押し掛けてすみません。及川さん、少し上がらせて貰えませんか?」
「う、うん。今日は親もいないしいいよ」
「……ありがとうございます」
「あ、あざっす!」


二人はなにやら後ろを気にしているような素振りで俺の家に上がった。最近雨の影響で気温が随分下がっているから温かいお茶でも出してあげよう。俺ってば気遣いもできるだなんてさすがだね……。後輩から慕われる自分の姿を想像して思わずにやけてしまう。……まあ、今の後輩は大人っぽい子が多いから素直になってくれることが少ないだけできっと尊敬はされてるはずさ!


「はーい二人とも! 及川さん特製のあったか〜いお茶だぞ〜。ありがたく飲みなさい!」
「はぁ、いただきます」
「いただきます!」


二人がお茶を飲む頃には顔色はすっかり良くなっていた。俺は今が話の聞き時だと思い、真剣な表情で国見ちゃん達に問いかける。


「それでなにがあったの?こんな日に二人して顔面蒼白の状態でいきなり俺の家に来るなんてただ事じゃないよね」
「……話しても信じてもらえないかもしれません」
「それは聞いてから判断するよ。第一国見ちゃん達が嘘つくような子達じゃないってことは及川さんがよーく分かってるんだから」


俺がそう言うと国見ちゃんと金田一は一度顔を見合わせてからぽつぽつとさっきまで遭っていた状況の話を俺にした。
その話を聞いて思い浮かんだのは吉川ちゃんの言葉。


『今回のあの事件に関わってるのは人間じゃなくて都市伝説≠セよ』

「……」
「あ、あの及川さん、俺達嘘なんてついてないです! ほんとっす……」


こういう怖さは俺もよく分かってるだろ?
先輩は先輩らしく後輩を守んなきゃね。

……ごめん吉川ちゃん。











「嫌な予感がするのはなんでだろう」


及川に少々強めに釘を刺した後、何度かこちらをチラチラと伺ってくる及川を完全スルーし迎えた放課後。あんなことを及川に言っておいて自分が巻き込まれたら格好がつかない。だから早めにかつ安全なルートで家までの帰路についた。それなのに、さっきからずっと胸騒ぎがする。


「まさか……いや、ないよね」

ふと頭を過った嫌な想像を振り払った。







『緊急速報です。昨日夜10時頃小学生4年生の女児が殺害される事件が起きました。先日の小学生男児殺害事件と同一人物による犯行だと警察側は考えているそうです』


次の日の朝。事件があの一件で終わるはずもなく、続け様にもう一件事件が起こってしまった。本当に可哀想だとは思うが私には何にもしてやれない。そもそも都市伝説を祓うなんてことできやしない。都市伝説とはいわば人が生み出してしまったようなもの。霊とは異なる霊波を放っているのだ。通常の霊よりも更にタチの悪いものを。
ひきこさんとは一度でも自分の姿を認知されてしまうとひきこさんの気が済むまで追いかけ回され引き摺られる。そう、つまりは気まぐれなのだ。だから簡単にどうこうできる話じゃない。
出会ったが最後、認知されてしまったが最期、ひきこさんが諦めるまで逃げるしかない。それが唯一の対処法としか……。だが逃げるのも容易いものではない。何日追いかけ回されるのかも分からないのだから。
あまりにも情報が無さすぎる。
──都市伝説の怖いところはそこなのだ。
まあ、あれだけ及川には釘を刺したし今回はそう巻き込まれることはないだろう。ひきこさんもあんなデカイ高校生を狙うよりかはそこら辺で歩いている小学生を狙うだろうし。
……だけどもし、もしも、本来狙われるべき小学生がいなくなってしまったとしたら……次に狙われるのは私達高校生や中学生になるだろう。あぁ……こわいなぁ……。

だがそれは、現実となってしまった。




「えー、皆も知っていると思うが最近ここらで小学生連続殺人事件が起きている。そのためここら一帯の小学校はしばらく休校になるそうだ。中学、高校は集団で行動するように指揮をとるが小学校のように休校する予定は今のところはまだない。お前らも帰り道には気を付けるように」


「……っ」



あーもう、これじゃあ……
まるっきり相手の餌食じゃないか。



私は気づかなかった。
もうすぐそこまでヤツの手が忍び寄ってきていたことに。

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