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「──え、交換制度……ですか?」
「あぁ。毎年、白鳥沢と青城の生徒を三年生の中から5人代表として一週間それぞれの高校を体験する制度があるんだ」
「はあ……。それでどうしてそれを私に?」
「吉川は成績優秀だからな〜。勉強のレベルの高い白鳥沢の授業にも問題なくついていけるだろう? 学年主任の先生も吉川を強く推してたぞ」


私が嫌そうな表情をしても引き下がろうとしない担任の鬼気迫る顔に気圧され、私はしぶしぶ「分かりました」と頷いた。
そして新たな波乱はここから始まっていた。



「げっ…吉川ちゃんが牛若野郎の所に行くのか……なんかムカつくな」
「及川お前、IHの事根に持ってるだけだろ」
「はあ!? そんなわけないじゃん!!!」
「IH……? あぁ、二人って決勝で白鳥沢に負けたんだっけ」
「吉川ちゃんってストレートだよね! そういうところ良いと思う!!」
「え、あ、うん。ありがとう?」


いつも通り(?)の会話を交わしながら私達は教室の扉付近で話していた。次の授業も後3分後に迫り、時計を見た岩泉は「そろそろ戻る」と言って自分の教室へ戻っていった。残された私達は軽く二、三言交わしてからお互いの席に戻った。
最近、なんだかんだ青城から離れることが多い気がする。私としてはあまり他のところをふらふらしたくはないのに。いきなり…でも無いが、唐突なビックイベントの到来に私は不安が隠しきれない。それにIHで青城バレー部を負かしたという白鳥沢バレー部にもかなり興味が湧いているし。楽しみ…なのかな?
こうしてドキドキしながら過ごしていると気づくと一か月後はあっという間だった。



「両校の親睦を深めるために毎年行っているこの交換制度は────ので、粗相の無いように青城生としての誇りをもって一週間を過ごすように。えーそれからー……」


ながったらしい校長の話を聞き流しながらこれなら白鳥沢へと行くバスを見つめる。これから一週間は白鳥沢に通うのだと思うと変な気分になった。朝の登校は一度午前7時青城の校門前に集まり、それからこのバスで白鳥沢まで行くということになっている。そのせいで今日から一週間はいつもより速く起きて行動しなくてはならない。それはちょっと憂鬱。

「じゃあバスに乗り込めー」

先生に誘導されるままにバスへと乗り込む。私以外の4人は生憎知り合いではなかった。元々友達の少ない私だから仕方がないことだけれど。しかしどうやら残りの4人も知り合いでは無いようだった。






「……これから一週間よろしくお願いします」

青城代表として私が白鳥沢の先生方に挨拶を述べる。事前に5人の中で代表挨拶を誰がするかという話になったときに押し付け合いが始まった為、仕方がなく私が立候補したのだ。
──青城よりも広い校舎に整備が行き届いている校庭。春になったら満開になるであろう桜の木。この学校で3年間を過ごせるということになったらさぞ快適なことだろう。
私が中学3年の時、青城と白鳥沢どちらを受験するか迷った末に確実に受かるだろうなと思った青城の方を私は選んだのだ。当時の担任からは白鳥沢でも学力的には問題ないと何度も言われたが、いまいち気が乗らなかったから白鳥沢の受験を止めた。


「吉川さんは3年3組で今日から一週間授業を受けてもらいます」
「はい、分かりました」
「では移動しますので、林田先生に着いていって下さい」


林田先生(男)に着いていき、3年3組の教室の前まで来た。私達5人はそれぞれランダムに選ばれたクラスに1人ずつ配置される感じになっている。私はくじ引きの結果、3組のクラスに来ることになったのだ。さて、どんな人がいるのだろうか。

「じゃあ吉田さん入ってきてください」
そして、その合図で私は3組の教室に足を踏み入れた──。

教室に足を踏み入れた瞬間、一人のガタイの良い男子生徒と目が合った。どこかで見たことがあるような……。初めて会ったとは思えないその風貌に私は気をとられてしまう。
そのせいでその後の自己紹介で私は何を喋ったのかをあまり覚えていない。ただ、私が自己紹介している間もその男子生徒の視線が私から一度も逸れることが無かったことは知っている。


「それじゃあ、席は牛島の隣だな。牛島、教科書とか見せてあげてくれ」
「分かりました」


どうやら私が一週間隣になるのはさっきから私から視線が逸れない牛島くん?らしい。なんという偶然だろうか。

「よろしくお願いします、牛島くん」
「あぁ、よろしく頼む」

この鋭い目付きに引き締まった筋肉……やっぱりどこかで────
と、その時ふいに頭の中で昔した及川達との会話を思い出した。


『牛若野郎が月バリに載ってるだとー!?』
『うるせえ及川』
『牛島だもんな。載らなきゃ可笑しいだろ』
『今に限った事でもないだろー?』
『俺も載りたい!!!』


────あぁ、思い出した。


「……牛若、野郎?」

つい口に出してしまったその言葉に牛島くんはほんの少し顔をしかめた。



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