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「3年6組、か」


玄関前に貼り出されたクラス発表の用紙を見上げながら小さく呟く。別にどのクラスでもいいのだ。だがここで、クラスの人が問題になってくる。
『及川徹』と男子側の名簿の3番目に書かれているその名前を見つけてしまい、思わずため息をついてしまう。彼とは中学が同じでちょっとした知り合いだ。向こうはどう思っているか分からないが。その及川徹の何が問題なのかというと、彼自身に問題があるというよりかはその回りに『憑いているモノ』が問題なのだ。
まず及川徹とは、男子バレーボール部の主将で全校の中でも中々のイケメンと噂されている男である。つまり、そんな彼には『恋愛』というものが少なからずも多からず関係することになる。……ここまで言ったら想像はつくだろうが、彼には恋愛絡みで何かあったであろう女の生き霊とやらが憑きやすい。
────いや、もう既に憑いていると言った方がいいのか。
あの様子だと本人にも支障をきたしているだろうに。可哀想な人。私には関係ないが。
…………そう、関係ないはずなのに──!!


「おっ、吉川ちゃんと同じクラスか〜。中学の時を思い出すねぇ……。って、話聞いてるの?吉川ちゃん!」


──そうだ。こいつはいつもいつもいつも、私に金魚の糞みたいに着いてきやがって!お陰様でコイツと関わった日の夜にはまくら元に必ず女がうずくまってブツブツ呟いてんだよ。「お前なんか早く死んでしまえ」ってね。鳥肌ものだよ、えぇ!
それをコイツは分かってる癖につきまとう。
これを嫌がらせと言わずなんと呼ぶのだ。たった一人の男の存在で私の命が危機と化してるんだ。コイツは事の重大さを分かっていないの?


「及川……もう関わらないでって言ったはずだけど」
「つれないなぁ。オトモダチなんだからいいじゃーん。俺はもっと吉川ちゃんと仲良くなりたいんだけどなー」
「私はそれを望んでない。それだったら及川よりも岩泉と仲良くなりたいわ」
「えっ、岩ちゃんなの?」


「どう考えたって俺の方が……」と、続けようとした及川の制服のネクタイを乱暴に掴み、自分のほうにグッと引き寄せる。その瞬間、及川が苦しかったのか「ぐえっ」と呻き声をあげたが完全に無視。
そして、私はいつもより低い声でコイツに忠告した。


「私の命が懸かってんの。興味本意で突っかかるな」






及川徹ははっきり言って『珍しいもの好き』である。彼にとって「格好いい」と言われるのは当たり前だし、女の子から言い寄られるのもほとんど当たり前。そんな彼は一般的な女にミーハーとは必ずと言っても良いほど付き合わない。彼が付き合う女の子と言ったら、この2つの枠に当てはまらない子。
ここで聞いてほしいことがある。及川徹と付き合った女は『全員が』なんらかの怪我や病気にかかるのだ。一時期ファンの間では騒がれた内容だが、「偶然だ」などの過激派ファンの一点張りの主張により今ではそれも消え去り今までと変わらない状況である。
だが生憎偶然などではない。それは他でもない彼にとり憑く生き霊の仕業だ。私には見えるのだから当然のように分かる。だからこそ及川とはあまり関わりたくない。
私は自分が一番可愛いし、正直なところ友人と自分の命どちらを取るかと言われたら迷わず自分をとるだろう。勘違いしないでほしい、罪悪感が無いわけではない。
…でも、怖いから。私はもうこれ以上何かを抱え込みたくないから。及川にも言えることだがその手のことは自分自身でなんとかしてほしいと思う。
ちなみに及川は私が霊を寄せ付けやすい体質だということは知っており、だから珍しいもの好きの彼に気に入られているのだ。あんなにあからさまに他の女子と違う対応をとられていたらただの鈍感でも気付くだろう。
及川は一体私に何を求めているんだろうか。私から見た感じ、及川本人も生き霊に憑かれていることに気づいていると思う。多分。
……もしかして、私に祓わせたりとかするんじゃないよね?わ、私は体質がやばいだけで祓えたりとかはマジで無理だから。本当に。もしも本当にそういう意図があるのならヤバいな。及川アイツがね。

と、そんな時携帯にメールの着信が届いた。




[納豆、最近は大丈夫そう?]




送ってきた主は私の親の友達の子供。相手は東京に住んでいて、幼い頃に数回会ったことがある。私の体質を知っている数少ない人だ。
名前は────『赤葦京治』。
彼も、私ほどではないが霊感体質である。なのでこうして月に何度かお互いの生存確認の為にメールを送り合う仲だ。
久しぶりに夏休みにでも会いに行こうかな…。


しかしその前に私達に一波乱が降りかかることを、私は知らなかった。

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