一欠片の人生が、

両親はどちらも即死だったそうだ。私はそのとき呑気に家でアイスを食べていて、家の電話が鳴ったときも「私のおやつの時間を邪魔しないで欲しいわ!」なんて巫山戯ていたのに。電話を取ったら相手は病院からで。両親が事故にあったことと既に息を引き取ってしまったことをいきなり聞かされて、もしかして夢でも見てるのかな?と本当に頬を抓った。
だけどその後、親戚の人達が駆けつけてきて、引っ張られるかのように病院まで連れていかれて既に息をしていない両親を見た。
人って死んだらあんなになっちゃうんだ。
いつものように皆で笑って食卓を囲むと思っていた。今日だっていつもと何ら変わりない日だった。だけどそれは突然訪れて、私から両親を奪っていった。
周りが泣く中、いまいち実感がわかなくて何故か泣けなかった私。普段はドラマとかで簡単に泣いちゃうのにその時だけはどうしても泣けず、肝心な時に涙が出てこないのってこんなに辛いんだなって気づいた。
気づけば日も経っていてあっという間に両親の葬式も終わり、仏壇に飾られている両親の遺影の前で私は座り込んでいた。真っ暗で、時計の秒針が進む音しかしない部屋。話す相手もいないから私も話さない。あんなに笑顔で溢れていた家は、こんなにも冷たくなってしまって……。


もう、いないんだ。
お父さんもお母さんも。


ようやくその事実を受け止められて、私が泣けたのは両親の葬式から1週間が経った日のことだった。


‐‐‐‐‐‐


ろくに食事も取らず、ただ毎日仏壇の前に座っているだけの生活をしていた私は当然前よりもやせ細ってしまい、肌も血色が悪くなっていた。
あの日、ようやく泣けた私は一晩中泣いた。あんなに泣いたのはいつぶりだろう。大きくなるにつれて泣く回数も減って、泣いたとしても声を上げないで泣けるようになって、赤ん坊のように泣きわめくことなんてもう無いと思っていたのに。夜中だということも近所迷惑だということも全て忘れてあの日は泣き続けた。お陰様で次の日の朝は喉がガラガラになってしまったけど。
今、親戚達で誰が私を引き取るか相談しているそうだ。どこも既に子供のいる家庭が多いから、お金の掛かる中学生を引き取りたがらない。揉めに揉めているそうだけど、1週間以上経った今でもまだ連絡は無い。もしかしたらこのまま一生一人で暮らすのかも…なんて。いつ迎えが来るか分からないから出来るだけ両親の傍に居たいと思って私はずっと仏壇の前で座っていた。もういっそ、迎えなんて来なければいいのに。
――――そう思っていた、翌日のこと。
家のチャイムが鳴って「ついに来てしまったか…」と、また泣きそうになりながら玄関の扉を開けると、そこにはとても綺麗な女性と高校生くらいに見える額に痣のある男の子と私と同年代くらいの可愛らしい女の子の3人が立っていた。こんな人達親戚に居たっけ…?と私が首を傾げていると、綺麗な人が「初めまして、納豆ちゃん」と口を開いた。綺麗な落ち着いた声。その声はどこかお母さんに似ているような気がする。私も「はじめまして…」と挨拶をすると、綺麗な人は優しく微笑んで、その綺麗な手を私の頭に乗せる。


「今日から私達と暮らしましょう」


久しぶりの人の温もりに、酷く泣きたくなった。

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