すっからかんな腹の中

禰豆子さんが葵枝さんに呼ばれ「ちょっとごめんね」と言って席を立った。1人になった部屋の中ではあ…と深く溜め息をつく。
両親が死んだのは年越しにある冬の祭りでヒノカミ神楽を奉納した後のことだったから、いきなり神楽舞う立場が私に代わるということは無かった。でも次の祭りからは、私が神楽をお父さんの代わりに舞うことになる。
両親のことを思い出すからと、ここ最近ずっと耳から外していた耳飾りを取り出す。……さすがにもう、見て見ぬふりはしちゃ駄目だ。
覚悟を決めて耳飾りを耳に付ける。カランッと動く度に耳元でする音に懐かしさを感じた。小さい頃は何となく勉強の時とかも邪魔だな〜と思うこともあったけど、次第に慣れていって、いつの間にか耳飾りをしていないと不安になった。だけどもう1、2週間は付けていなかった耳飾り。やはり不安になると言ってもあまりにもショックなことが起こるとどうでも良くなるみたい。
私は最後までヒノカミ神楽を舞うことが出来るのかな。……あの日、お父さんは本当になんて言ったんだっけ。私の“何を見て”そう思ったんだろう。
耳元で揺れる耳飾りに触れる。私はこの耳飾りも、ヒノカミ神楽も、絶やしては行けない。継いでいく義務がある。……あぁ、嫌だなあ。傍でお父さんとお母さんが応援してくれていたら頑張れたかもしれない。でも1人になると…とてつもなく逃げたくなってしまう。
胸の中がザワザワして、とても苦しい。気持ち悪い。
ギュッと胸元を押さえて目を瞑った時、トントンと扉がノックされた。


「お昼ご飯持ってきたんだ!すまないが開けてくれるか?」


訪れてきたのは禰豆子さんじゃなくて、炭治郎さんだった。急いで扉を開ける。そこにはさっきの禰豆子さんと同じように優しく微笑む炭治郎さんが立っており、幾つものおにぎりを乗せたお皿をお盆に乗せて持ってきてくれたようだ。
「ありがとうございます!」と言いながらお盆を受け取ろうとすると、炭治郎さんは「テーブルまで持っていくよ」と言って本当にテーブルまで持ってきてくれた。おにぎりは炊きたてのご飯で握られたのか、ホカホカとしておりとても美味しそう。炭治郎さんに「お米、ありがとうございます」とお礼を言うと炭治郎はどやさ!という表情で「どういたしまして!」と言った。


「禰豆子は戻ってくるまでもうちょっと掛かりそうだから、先に食べててく…れ…………ッ!?」
「あ、分かりました」
「……」
「…………えーと、あの、何か…?」


用件は済んだはずなのにジッ…と私を見つめたまま視線を外そうとしない炭治郎さん。私はいたたまれない気持ちになりながら、首を傾げる。耳元でまた、耳飾りがカランッと鳴った。



「……その耳飾りって」



炭治郎さんの手がこちらに伸ばされ、



「どこで手に入れたんだ…?」



耳元で揺れる耳飾りに炭治郎さんの指が触れた。

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