散らばる光の子

「お兄ちゃん、納豆ちゃん、お話はもう済んだかな?」
「あ……禰豆子さん! はい、もう終わりました」
「待たせてごめんなぁ…禰豆子」


ほとぼりが冷めた頃に扉からひょっこりと顔を出して現れたのは、先程私達に気を使って別の部屋に待機していた禰豆子さん。私と炭治郎さんが笑顔で迎えると、この空気感から話し合いは上手くいった事を察し、酷く安堵した表情で部屋に入ってきた。そして私の隣に座り込むと、炭治郎さんを見るなり頬をプクッと膨らませる。


「もう! お兄ちゃんったら…どんな理由があったのかは知らないけど、納豆ちゃんに痛い思いをさせるなんて酷い! ちゃんと反省してね」
「あぁ……その事については本当に申し訳ないと思っているよ……。本当にごめんな、納豆ちゃん」
「いえ! 本当にもう気にしていないので…」
「納豆ちゃんはもっと怒ってもいいんだからね!」


プンプン…と腰に手を当てて炭治郎さんを叱る禰豆子さんを見ていたら、その姿がとても可愛らしく見え、自然と口角が吊り上がっていた。本当に良い兄妹だなあ……。
そう思えば思うほど、彼らが遠い存在に思えてくる。優しい禰豆子さん達の事だから、きっと私を暖かく迎えてくれるに違いない。それでもやっぱり、私の中からこの疎外感が消えることは一生無いのかもしれない。いっそ分かりやすいくらい線引きしてくれたらまだ割り切れるのに。……いや、それはそれで凄く悲しいか。
竈門家がどうあれば、私は満足できるのだろう。私にこの家族に口出しする権利は無いのに、我儘なことばかり考えてしまう。完全に溶け込無ことが出来ないのは分かっている。それでも心のどこかで「ひょっとしたら」と考えてしまっている自分が気持ち悪い。
――お父さんとお母さんが死ななかったら、こんな事で悩むことも無かったのにな。


「納豆ちゃん大丈夫……?」
「なんだかぼうっとしているみたいだ…。もしかして、熱でもあるのか? だったら今すぐ体温計で……」
「あっ、だ、大丈夫デス! ちょっと考え事をしていただけなので!! 熱とか全くないですから! この通りピンピンしてますッ」


心配そうに顔を覗き込んできた二人に、過剰なまでの動きで私は健康をアピールした。それでも二人はまだ心配そうだったけど、ならいいんだけど…と言って身を引いた。まずいまずい、考え事をしてるとぼうっとしちゃうの悪い癖だ!


「あ、そろそろ竹雄達が帰ってくる頃だな」
「本当だ。納豆ちゃんのことも紹介しないとだからもう下で待ってようよ!」
「そうだな」
「という訳で! これから下に行くよ、納豆ちゃん!」
「はい。分かりました」


竹雄……。炭治郎さん達の弟さんの名前。時計を盗みみれば、確かにもう帰ってきてもおかしくない時間帯。どれだけ私たちは話し込んでいたんだろう。それだけ夢中になっていたということかもしれない。
それにしても、なんだかドキドキしてくる。向こうは新しい人が家に来るということは知っているだろうけど、まだ年端もいかない子供なのだから、私のことを受け入れられないということだってある筈。むしろ暖かい家族の中に知らない人間が混じる事を笑顔で受け入れられる幼い子が居るのだろうか。少なからず距離を置かれることは覚悟しておいた方がいいかなぁ…。
禰豆子さん達の後ろについて、リビングへと進む足が、まるで鉛のように重く感じた。

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