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久遠さんから電話を貰った日の翌日、いつも通り学校があるため、朝に起きるのは苦手だけど遅刻する訳にもいかず、けたたましく鳴る目覚まし時計を睨みつけながらも私は重たい腰を起こし身支度を整えて学校へと向かった。そして教室に着き、一息ついていると担任の先生が慌ただしく教室に入ってきた。
同じクラスの皆が「先生ー?」「どうしたの〜?」と、声を掛けている中、先生がやって来たのはなんと――私。

「小野寺さん……っ、今すぐ校長室に来なさい!」
「え、あ、はい。」

息をゼェゼェと切らしている先生の姿はとても珍しく、私もポカン…と先生の姿を見つめながら呆然としてしまう。クラスメイトの視線が私たちに集中する中、先生の後ろをついて歩き、教室を出て校長室へと向かった。
そして扉をノックをしたりと手順を踏んでから校長室に入ると、中には校長先生と教頭先生、更に学年主任の先生が居た。そこに私と担任の先生が加わり、校長室に居るのは総勢五人となる。校長先生に促されるまま備え付けのソファに腰を下ろすと、学年主任の先生が何やら『重要書類』と表紙に書かれた分厚い紙束を持ち出して来た。
なんだアレ……と、目を細めてその書類を見つめると学年主任の先生が書類の表紙を捲り、口を開く。

「えーと、小野寺さん。貴女に確認しないといけないことがあります。」
「は、はい。」
「今日の朝、急遽学校に連絡が会ったのですが貴女は明日からFFIに日本代表として参加するチーム――イナズマジャパンのマネージャーをする、ということで間違いありませんか?」

そう言って学年主任の先生は書類に書かれている沢山の文面の中、赤文字で強調されるように書かれている部分を指さし、書類から私に視線を移す。私は先生が指さす赤文字の部分を目で追い、心の中で読みあげる。確かにそこにはその旨が書かれていた。そのページの一番下には『代表責任者:久遠道也』と記載されている。その名前には聞き覚えがあった。思い出したのは昨日の電話の相手。
私は先生の目を見つめながら「はい。」と頷く。すると、先生達はお互いに目を合わせ「まさか…。」と感嘆の声を漏らした。

「我が校から日本代表のチームのマネージャーという大役を担う生徒が出るとは……。」
「凄いじゃないか小野寺! いつの間に日本代表の監督と知り合っていたのかは知らないが、精一杯頑張るんだぞ!」
「…はい、全力で頑張ります。」

私が校長室に呼ばれたのはこれらの事実確認と明日から代表合宿に参加するというのでその公欠の確認、そして私を応援する為だったようで。言われてみたら久遠さんの電話は突然なもので、代表合宿に参加するというのは本当にいきなりな話。それをいきなり朝に聞かされた先生達が混乱するのも仕方の無いことかもしれない。
私は先生達にもう一度頭を下げて「ありがとうございます。」と感謝の言葉を述べた。
――この暖かい先生達が居る学校が宇宙人(仮)に壊されなくて本当に良かったな。


教室に戻ると周りから何があったのかと質問責めにされた。それを担任の先生が「全員速く席に戻れー」と言って皆を散らしていく。ブーブーと先生にブーイングが上がる中、私はホッとため息をついた。
そんな中、小さな声で私に声を掛けてきたのは隣の席の男の子。

「……ねえ、小野寺さん。」
「片岡君、何?」

――隣の席の片岡悠斗君。二年の始めにこのクラスに転校してきた男の子。前はどこの中学校に居たのか聞いても本人は「秘密〜」と言ってよくはぐらかす。ミステリアスな面もあるけど、基本的に良い人だから普通にクラスにも溶け込んでいる。そんな彼とは隣同士ということもあってよく世間話をしたりするので、こんな風に話しかけられても特に疑問は感じない。

「朝早く校長室に連れてかれたみたいだけど何があったの?」
「あー……。」

私はつい目を泳がせる。聞かれても可笑しくない事なのだけど、あの事を言っても良いのかよく分からない。うーん、でも……片岡君は言いふらしたりしないし、片岡君なら言っても大丈夫かな?
片岡君を信じることにした私は、片岡君の耳元に口を寄せるとひそひそ話をするかのように口を開いた。

「実はね、私明日からFFIに日本代表として出場するチーム……イナズマジャパンのマネージャーとして代表合宿に参加することになったんだ。だからその確認に呼ばれたの。」
「えっ、日本代表の? イナズマジャパンって……。凄っ……頑張れ、小野寺さん。」
「うん。ありがとう、片岡君。」

目を見開いて固まった片岡君に苦笑しつつ、教卓に立って話している担任の先生に私は意識を向けた。
――そのとき、片岡君が冷めた目で私を見つめていた事に私は気付かなかった。
















「……はい。イナズマジャパン日本代表のマネージャーとして代表合宿に参加すると言っていました。……はい、分かりました。」

体育館裏で人目を避けるようにして誰かと電話をしている男が一人。
その男はつい先程、明日から公欠扱いでいなくなる少女本人から聞いた話を電話相手に報告していた。


「……いえ、このくらいの事何ともありません。」
――――全ては総帥…貴方の思うままに。


彼……片岡悠斗は、総帥影山零治から送られた諜報員スパイだった。

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