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代表合宿へ持っていく荷物をまとめ、明日に備えて早めにベッドに潜り込む。明日はいつもより早く起きなければいけないからもう眠りにつかなければいけないのに、無駄に心臓がドキドキしてしまい一向に眠気がやってこない。……イナズマジャパンってどんな人達が居るんだろう。マネージャーさんってきっと他にも居るよね。仲良くなれると良いなあ…。
布団を両手で握り締め、頭まで深く被る。

「サッカー……久しぶりに見るな……。」

目を閉じてどれくらい経ったかは分からないが、しばらく目を閉じていると次第に私は深い眠りについていった。







「雷門中ってどこにあるんだろう……。」

早朝、時間通りにしっかり起きることができた私は身支度をばっちり整え、朝ご飯も食べ終え、そして荷物を持ち電車とバスを乗り継いで稲妻町へと向かった。しかし、問題はここから。久遠さんから稲妻町までの電車とバスは聞いていたのだけれど、バス停から雷門中までの道は聞いていなかった。誰か人はいないのかと町の中を歩いたのだが、こんな時に限って道行く人が一人もいない。気付けば「遅刻厳禁」と言われていたのにもうすぐで約束の時間を過ぎてしまう所まで時間は経っていた。折角、朝は時間通りに起きれたと言うのに。これではとんだ骨折り損。
周りからあんなに応援されて、頑張ろうと意気込んで来たのにこんな目に遭うなんて……。嗚呼、嫌だ…。叱られたくないよ……。先生にも「自己管理がなってない」って怒られるかもしれない。うっ…それだけは嫌だぁ。
《叱られる》という行為が一番苦手な私は、これから訪れても可笑しくないであろう最悪の状況を想像してしまい、目頭が熱くなってきた。じわり…と涙が溢れそうになるギリギリの所を指で掬いとる。
こんな道端で泣きわめくなんてみっともないことは出来ないと気合いで涙を止め、不安でザワつく気持ちを抑えるために深呼吸をして心を落ち着かせる。

「……よし。泣いちゃダメ。どこかの家の人に尋ねてみようかな。」

外に人が居ないのなら、家の中に居る人に聞くしかない。そう思ってどこかの家に尋ねようと足を踏み出した時、どこからか人が会話をしているような声が聞こえてきた。ピタリと踏み出した足を止め、全神経を耳に集中させ声の聞こえる方に私は走り出した。
――多分、この曲がり角の先に……!
曲がり角を曲がる時は気をつけろ、と小学校の時に先生から耳にタコができる位に言われ続けていたというのに、人はこのような時には忘れてしまうようで。バッと曲がり角を曲がった瞬間、視界一杯に酷く驚いた表情をした人の顔が広がり、次の瞬間にはドンッと体に衝撃が走っていた。その衝撃で軽く後ろに吹き飛び、ドサッと尻餅をつく。

「すみませ――」
「ごめんッ!」

私が咄嗟にぶつかった相手に謝ろうとした言葉を遮り、相手は大きな声で私に謝ってきた。思わず「えっ」と、私は間抜けな声を漏らしてしまう。
私がぶつかった人は頭にオレンジ色のバンダナをした男の子で見る限り同年代のようにも見える。そしてその人の少し後ろにももう一人、男の子が立っており、心配そうな目で私達を交互に見比べている。
バンダナ君は立ち上がると、アスファルトの上に座り込んでいる私に「大丈夫か?」と言って手を差し伸べてきた。

「あ、ありがとうございます! ぶつかってしまってごめんなさい……。怪我とかはありませんか?」
「俺は全然大丈夫だ! お前の方こそ怪我してねえか?」
「はい。私も大丈夫です。」

バンダナ君はニカッと眩しいくらいの笑顔を浮かべると「良かった!」と言った。
すると、もう一人の男の子が私達に駆け寄って来る。

「お二人共、大丈夫ですか!?」
「大丈夫だぞ虎丸。俺もこの人も怪我してねえから!」
「なら良かったです。もしも円堂さんが怪我をしていたら大変でしたよ……。」
「ハハッ! 俺は丈夫だから、ちょっとぶつかった位じゃ怪我しねえから安心しろよ!」

どうやらこの二人の会話を聞く限り、バンダナ君の名前は円堂さんで、もう一人の子は虎丸さんというみたい。
……って、違う! 私は急がないとだった!
私は慌てて円堂さんに雷門中への道を尋ねる。

「あの、いきなりですみません! ちょっとお尋ねしたいのですが雷門中学校はどこにありますか?」
「雷門中……? それなら俺達もこれこら雷門中に行くところだから一緒に行こうぜ! 虎丸も良いだろ?」
「はい、勿論です!」
「ありがとうございます! 本当に助かります!」

二人に深く頭を下げてお礼を言うと、二人は狼狽え、円堂さんは「いいっていいって!」と言って私の頭を上げさせた。そして三人で駄弁りながら雷門中へと向かう。

「そういえば、お二人は雷門中の人なんですか?」
「俺は雷門中だけど虎丸は違うぞ〜。」
「そうなんですね。じゃあどうして虎丸さんは雷門中に……?」
「はい! 俺も円堂さんも、人に呼ばれたので雷門中に向かってるんです。具体的に何があるかは分からないんですけどね。」
「へー……何があるんだろうね?」
「気になってしょうがねえよ……って、喋ってたら直ぐに着いちまった…。雷門中は此処だぜ!」
「あ、本当だ。あっという間でしたね……。本当に助かりました!」

時間を確認する。……ギリギリ間に合ったようだ。これで怒られなくてもすむ。本当にこの二人に感謝しないと。

「お前、礼言ってばかりだなー。今更だけど俺は円堂守! よろしくな!」
「あ、俺は宇都宮虎丸です。」
「私は小野寺納豆です! それじゃあ、私はここら辺で……。」
「おう、またなー!」
「小野寺さん、さようなら!」

手を振る円堂さんと虎丸さんに何回か会釈して私はこの場から立ち去った。

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