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「初めまして。私は小野寺納豆です。これからよろしくお願いします。」

円堂さんと虎丸さんと別れた私が次に向かったのは雷門中の理事長室。予め久遠さんから雷門中に着いたら理事長室に行くよう伝えられていた。雷門中は校舎も大きく、また迷ってしまうのではないかと心配にもなったけど流石に建物の中で迷うことは無く、無事に理事長室に辿り着くことが出来た。そして理事長室に入ると中に居たのは雷門中の理事長さんと、もう一人小太りのおじさんの二人。すぐに頭を下げて自己紹介をすれば、理事長さんが「よく来てくれたね。」と言って淹れたての紅茶を出してくれた。
テーブルを挟んで向かい側のソファに理事長さんと小太りのおじさんが座り、反対側のソファには私が座っている。お互い一息つくと、今まで黙っていた小太りのおじさんが急に口を開く。

「俺は雷門中サッカー部の監督、響木正剛だ。こちらこそこれからよろしく頼む。」
「はい。あの失礼ですが、久遠さんはどちらに……?」
「アイツは今日は来ていない。」
「え……。」
「今日、小野寺を雷門中に呼んだのはイナズマジャパンのメンバーに新マネージャーとして紹介するためだ。だがイナズマジャパンのメンバーを決める選考試合は明日。今頃、体育館にはイナズマジャパンの《代表候補メンバー》が集まっているだろう。これから俺もそっちへ向かう。だからお前にも一緒に来てもらい、その場でアイツらにお前の紹介をする。」
「そういう事だったんですね。では今日は明日ある選考試合のチームの振り分けを発表したりするということですか?」
「あぁ、そういうことだ。」

響木さんの説明を頭の中で噛み砕いて消化していく。つまり本格的な練習は明日、明後日から始まるらしい。今日は顔合わせ程度。確かに、いきなり日本代表の中に放り出されるよりかは最初の内に顔を知られていた方が私も安心できるかも。それにしても久遠さんはいないのか。私に遅刻厳禁と言っていたからてっきり居るものだとばかり思っていた。両親の知り合いだったと言うからどんな人なのか気になっていたからちょっと拍子抜け。
もう体育館に移動するらしく、最後に理事長さんに頭を下げて理事長室を出る。……なんだか少し緊張してきちゃったなぁ。
いつも緊張したときにするように、ふぅー…と深呼吸をすると、それが聞こえたのか少し前を歩く響木さんがこちらを振り返る。

「緊張しているのか?」
「はい……。上手く溶け込めるのかなとか、ちゃんとサポートできるかなとな、色々と心配で……。」

素直に心の内を打ち明ける。すると響木さんは「ハッハッハ!」と豪快に笑い、足を止めてこちらに体ごと振り返った。響木さんのいきなりの行動に驚き、ビクッと肩を揺らす。響木さんはそんな私の様子もお構い無しというように口角を吊り上げると、左手を腰に当て、右手を私の頭にポンと置いた。

「小野寺。お前はサッカーが好きか?」
「…はい! 小さい時から、サッカーは私の中の一番です!」

質問の意図が分からず、少し逡巡してしまう。だけどそれは単純な質問でしかないと自分を納得させ、私は素直にその質問に答えた。どうやら私の答えは響木さんのお気に召したらしく、響木さんは纏う雰囲気にどこか嬉しさを滲ませながらグシャグシャと私の頭に乗せた手を動かして私の髪を掻き回す。その手は、とても暖かくて、大きくて、安心する。まるでゴールの守護神――GKのような手。


「その気持ちを持っているのなら大丈夫だ。きっとお前もアイツらに溶け込める。」
「そうなん、ですか……?」
「あぁ。なんてったってアイツらは――」

――――清々しいほどの《サッカー馬鹿》だからな。


そう言って響木さんは優しく笑った。
……私も昔は周りからあんな風に思われていたのかな。

記憶の隅で、サッカーボールを手に抱えた幼い私が、笑ったような気がした。

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