Deep in your heart



その闇に触れたくて

そっと手を伸ばした。



Deep in your heart




あなたに出会った日も、こんな小雨が降っていたね。
薬の素材を取りに出掛けていた私は傘を忘れてボロボロの小屋で雨宿りをしていたんだっけ。
そしたらたまたま近くを通ったあなたが、「濡れちゃうよ」って自身に降りかかる雨を避けるための傘を、差し向けてくれたんだよね。
その瞬間からきっと、私は恋に落ちたんだ。


「やあ、アモール。今日も元気そうだね」
「アーデン!お陰様で繁盛してるよ」
「オレはほとんど何もしてないよ。アモールが勉強熱心だから」

あの日、採取した草葉を見たアーデンが、私の知らない調合法方があることを教えてくれた。
それがまるで魔法のようで、それから猛勉強して色々な薬を作れるようになったんだ。
だから、アーデンのおかげ。

「アーデンは何をしてるの?宰相がこんなところふらふらしてていいの?」
「ふらふらって酷いなあ。アモールに会いに来たって言うのに」
「はいはい。簡単にそういうこと言ってると本当に伝えたい時心がこもらなくなって薄っぺらくなっちゃうよー」
「オレの渾身の口説き文句を作業しながら聞くの止めない?」

そう言って苦笑するアーデン。
けれど私の目にはその表情がうまく映らない。
私は、彼の笑顔を見たことがない気がする。

「…ねぇアーデン、笑って」
「ん?オレ、これでも笑ってる方だと思うけど?」
「そうじゃなくて」

届きそうで、届かない。
伸ばした手が、その心に。

「そんな顔しないでよ。アモールが沈んでると、オレも笑ってあげられないよ?」
「…うん」
「君を笑顔にしてあげようか」
「え?」
「薬を調合した時、それを魔法のようだって言ってたけど、本当の魔法を見せてあげるよ」

アーデンが私の手を取る。少し引き寄せられて一歩、足が前へ動いた。
右手が何かを持ちながら手首に触れると、くすぐったい感覚を覚える。
私の手を支えていたもう片方の手が離され、ソレを彼の両の手で付けられた。

「ブレスレット…?」
「そう。手作業をする君には映えると思って」
「凄くキレイ。ありがとう…。でも、なんで?」
「オレが君を、アモールを好きだから」

いっそう柔らかくそして甘い声が耳を捕らえた。
その言葉が私の体内でぐるぐると回る。
それが心まで届き、鼓動が早まった。

「…わたしも、好き」

考えるよりも前に、勝手に口から解かれた。
それと同時にアーデンの腕が私に伸びる。
ふわり、とほんの少しだけ力を込めて抱き締められ、指先が私の顎を掬う。
ゆっくりと、まるでコマ送りの映像かのようにゆっくりと、アーデンの顔が近付いてくる。
触れるその瞬間に視界を閉じた。


優しく、短いキス。
リップ音と共に離れることが惜しくて、抱き止めたかった。

好きだと、そうさらりと言ってのけるあなた。
知ってる?
私が気が付いていること。
あなたの、心深くに隠された秘密があることに。

それを、少しでもいい。
あなたがしまっているその秘め事を、教えてほしい。

その闇に届いた時

きっと私は

渇いた心に水を得て、満たされる気がする。



「今夜はずっと一緒にいよう。愛してるよ?アモール」

あなたの心は、その愛は

どのくらい深い?



闇の内側の奥深くにある

誰も知らない、特別な
どこか知らない、特別な



本当のあなた
触れて、感じたい。



Deep in your heart
(いったい何が、潜んでいるの)